年間100日の面会交流提案と親権につき判断した東京高判H29.1.26

 千葉家裁松戸支部平成28年3月29日判決は、小学校2年生の長女を約5年10ヶ月間監護してきた妻ではなく、年間100日に及ぶ面会交流の計画を提案した夫を親権者と定めたものであり、マスコミで大きく報道されました。

 控訴審はどのような判断をするのか注目していたところ、東京高裁平成29年1月26日判決は、一審判決を変更し、主たる監護者であった母妻を親権者に指定しました。

 親権者の指定につき興味深い判決ですのでご紹介します。

千葉家裁松戸支部平成28年3月29日判決

 判決は、次のように述べて夫を親権者に指定しました、尚、原告を妻、被告を夫と表記し、証拠の引用は省略しています。

「三 親権者について

 上記認定の事実によれば、妻は夫の了解を得ることなく、長女を連れ出し、以来、今日までの約5年10か月間、長女を監護し、その間、長女と夫との面会交流には合計で6回程度しか応じておらず、今後も一定の条件のもとでの面会交流を月1回程度の頻度とすることを希望していること、他方、夫は、長女が連れ出された直後から、長女を取り戻すべく、数々の法的手段に訴えてきたが、いずれも奏功せず、爾来今日まで長女との生活を切望しながら果たせずに来ており、それが実現した場合には、整った環境で、周到に監護する計画と意欲を持っており、長女と妻との交流については、緊密な親子関係の継続を重視して、年間100日に及ぶ面会交流の計画を提示していること、以上が認められるのであって、これらの事実を総合すれば、長女が両親の愛情を受けて健全に成長することを可能とするためには、夫を親権者と指定するのが相当である。

 妻は、長女を現在の慣れ親しんだ環境から引き離すのは、長女の福祉に反する旨主張するが、今後長女が身を置く新しい環境は、長女の健全な成長を願う実の父親が用意する整った環境であり、長女が現在に比べて劣悪な環境に置かれるわけではない。加えて、年間100日に及ぶ面会交流が予定されていることも考慮すれば、妻の懸念は杞憂にすぎないというべきである。

 よって、妻は夫に対し、本判決確定後、直ちに長女を引渡すべきである。」

東京高裁平成29年1月26日判決

 判決は、次のように述べて、原判決を変更し、妻を親権者に指定しました。尚、控訴人を妻、被控訴人を夫と表記し、証拠の引用は省略しています。

「3 親権者の指定について

(1) 父母が裁判上の離婚をするときは、裁判所は、父母の一方を親権者と定めることとされている(民法819条2項)。この場合には、未成年者の親権者を定めるという事柄の性質と民法766条1項、771条及び819条6項の趣旨に鑑み、当該事案の具体的な事実関係に即して、これまでの子の監護養育状況、子の現状や父母との関係、父母それぞれの監護能力や監護環境、監護に対する意欲、子の意思(家事事件手続法65条、人事訴訟法32条4項参照)その他の子の健全な成育に関する事情を総合的に考慮して、子の利益の観点から父母の一方を親権者に定めるべきものであると解するのが相当である。父母それぞれにつき、離婚後親権者となった場合に、どの程度の頻度でどのような態様により相手方に子との面会交流を認める意向を有しているかは、親権者を定めるに当たり総合的に考慮すべき事情の一つであるが、父母の離婚後の非監護親との面会交流だけで子の健全な成育や子の利益が確保されるわけではないから、父母の面会交流についての意向だけで親権者を定めることは相当でなく、また、父母の面会交流についての意向が他の諸事情より重要性が高いともいえない。

(2) ~これまでの長女の監護養育状況等については、~長女の主たる監護者は妻であったと認められ、~妻は、同日に夫と別居後も一貫して長女を監護養育しているところ、長女は、妻の下で安定した生活をしており、健康で順調に成育し、妻との母子関係に特段の問題はなく、通学している小学校での学校生活にも適応していることが認められる。

(3) 父母の監護能力等については、妻も夫も長女に深い愛情を有しその監護養育に強い意欲を示している。妻も夫も、有職者であり相応の収入があるところ、いずれも、勤務時間の融通が利く立場にあり、長女の監護養育につきそれぞれの両親の支援を受けることができ、長女の監護養育の観点からみた住宅環境も妻と夫とで決定的な差はない。なお、妻と夫との別居前における長女と夫との父子関係は、良好であった。

(4) 子の意思については、長女は、平成○○年(当時小学校3年生)、妻と一緒に暮らしたいとの意向を示した。長女は、妻と夫との別居後、一貫して妻と共に暮らしているから、長女の上記意向には妻の影響が及んでいるものと推認されるが、それでも今後も妻と一緒に暮らしたいということが長女の意思に反するものであることをうかがわせる事情は見当たらない。

(5) 夫は、自分が親権者に定められた場合には、妻と長女との面会交流を年間100日程度認める用意があるから、夫を親権者に定めるべきであると主張する。

 一般に、父母の離婚後も非監護親と子との間に円満な親子関係を形成・維持することは子の利益に合致することであり、面会交流はその有力な手段である。しかし、親権者を定めるに当たり、非監護親との面会交流に関する事情は、唯一の判断基準ではなく、他の諸事情よりも重要性が高い事情でもないことは、上記説示のとおりである。そして、妻宅と夫宅とは片道2時間半程度離れた距離関係にあり、現在小学校3年生の長女が年間100日の面会交流のたびに夫宅と妻宅とを往復するとすれば、身体への負担のほか、学校行事への参加、学校や近所の友達との交流等にも支障が生ずるおそれがあり、必ずしも長女の健全な成育にとって利益になるとは限らない。他方、妻は、自分が親権者に定められた場合にも、夫と長女との面会交流自体は否定していないが、その回数は当面月1回程度を想定している。しかし、当初はこの程度の頻度で面会交流を再開することが長女の健全な成育にとって不十分であり長女の利益を害すると認めるに足りる証拠はない。

 ~略~

(6) 以上の諸事情のほか、長女の現在の監護養育状況にその健全な成育上大きな問題はなく、長女の利益の観点からみて長女に転居及び転校をさせて現在の監護養育環境を変更しなければならないような必要性があるとの事情は見当たらないことも総合的に勘案し、長女の利益を最も優先して考慮すれば、長女の親権者は妻と定めるのが相当である。

 ~略~」

コメント

 一審判決は、夫が年間100日に及ぶ面会交流の計画を提示していることを重視し過ぎていたものを思われます。これに対し、高裁判決は、総合的な見地から父母のいずれが親権者にふさわしいか判断しており、妥当な判断なのではないでしょうか。

(弁護士 井上元)