妻による子の住民票移転を違法ではないとした大阪高判平成17.3.22

 妻が子どもを連れて別居した後、妻が夫の意思に反して子どもの住民票を移転し、市がこれを受理したことが違法であるとして争われた事案があります。

 参考となるケースなのでご紹介します。

大阪高裁平成17年3月22日判決

事案の概要

① 夫と妻との間には長男(平成12年生)がおり、家族は宝塚市にて居住していた。

② 妻は、平成14年1月、長男を連れて鹿児島の実家に帰り、夫と妻は別居状態に入った。

③ 夫と妻は調停離婚し、長男の親権者は家庭裁判所における審判によって指定を受けることとなり、親権者指定の審判が係属している。

④ 夫は、平成14年、市に対し、「妻との間で離婚訴訟が係属中であり、妻から長男の転出届が提出された場合、離婚裁判の確定まで転出届の受理を留保してほしい。」旨の申し入れをしたが、妻は市に対し長男の転出届を提出し、受理された。

⑤ 夫は、市に対し、本件転出届の受理は無効であるとして、本件転出届の受理行為の取消しを求める異議申立て、更には審査請求を行ったがこれが棄却されたため、転出届受理行為の取消訴訟を提起した。

判決内容

 夫は、「転出届は単なる事実の報告という形式的行為ではなく、種々の住民の権利・利益に関わる行為である。転出届がもたらす住民の権利・利益は、転出届の提出に伴う反射的効果ではなく、住民基本台帳法の直接の保護対象となっている権利・利益である。これらの法律上の効果から、転出届の提出行為は、まさに子に関する居所指定権行使にほかならず、婚姻中の父母の共同親権行使の対象となることは明らかである。したがって、少なくとも、本件のように、転出届の提出が父母の一方の意思に明らかに反する場合には、共同親権の原則に反する無効行為といわざるを得ない。」と主張したが、判決は次のように述べて夫の請求を棄却した原審・神戸地裁平成16年10月19日判決を支持し、控訴を棄却した。

 「父母の婚姻中は親権は共同行使されるべきものであるから、子の居所指定権もその対象となるが、本件のように、父母間に夫婦関係を巡る紛争が生じ、父母が別居状態である場合に、未成年子(しかも2歳児)の居所指定に関する父母の意見が一致しないため、父母の一方が未成年子を監護養育する必要上、単独で居所指定権を行使することが、それだけで直ちに違法無効な行為であると断定することはできない。また、前記のとおり、住民基本台帳法上の住所は、各人の生活の本拠をいい、各人の住所の認定は、基本的には、客観的居住の事実に基づいて決定されるものである以上、未成年子をどの市町村の住民基本台帳に記録するのか(住民票上の住所をどの市町村の区域内に置くのか)は、あくまでも当該未成年子の生活の本拠がどこであるのかという既定の事実を前提とするものである。そうすると、住民基本台帳に記録された(住民票上の住所を置いた)結果、一定の法律効果が発生することをもって、既に発生した事実の報告にすぎない転出届の提出が、共同親権の対象となるとはいえない。したがって、原告の上記主張は採用することができない。」

コメント

 上記大阪高裁判決のとおり、住民票は実際の生活の本拠に置かれるべきものであり、住民票の移転は違法ではないと解されます。

 また、居所指定権につき、同判決は「父母間に夫婦関係を巡る紛争が生じ、父母が別居状態である場合に、未成年子の居所指定に関する父母の意見が一致しないため、父母の一方が未成年子を監護養育する必要上、単独で居所指定権を行使することが、それだけで直ちに違法無効な行為であると断定することはできない」と判示しており、参考となるところです。

(弁護士 井上元)