面会交流の間接強制の申立てを却下した大阪高裁平成24年3月29日決定

 面会交流の間接強制の申立てを却下した、大阪高裁平成24年3月29日決定について、ご紹介します。

事案の概要

 妻と夫は、平成13年に婚姻し、両名の間に、平成14年に長女(本件決定当時10歳)が、平成16年に長男が生まれた。

 平成21年、妻は、長女と長男(以下「子ら」という)を連れて実家に帰り、夫と別居した。

 夫は、平成22年、妻に対し、子らとの面会交流を求める調停を申し立てた。審判手続移行後、家庭裁判所は、平成23年、面会交流を命じる審判をし、抗告審の高等裁判所は、同年、毎月1回第3日曜日に3~6時間の父子面会交流(以下「23年決定」という)を命じた。

 妻は、夫と長男との面会交流は実施し、現在まで継続しているが、長女については、妻において、面会交流の方法や場所について工夫しつつ、長女にその都度働きかけるも、長女がこれを頑なに拒否していることから、23年決定後現在に至るまで、面会交流は一度も実施されていない。手紙等の間接的な面会交流も実施されていない。

 夫は、妻に対し、23年決定内容に記載されたとおりの面会交流をさせること、及び面会交流の不履行1回につき2万円の支払いを命じる間接強制の申立てをした。

 なお、妻は、平成22年、夫を被告として離婚等請求訴訟を提起し、夫は、これに対し、離婚等を求める反訴を提起し、これらの事件は、係属中だった。

 原決定の概要は、次のとおりである。

 23年決定はその内容が具体的に特定されているから、妻は、23年決定により長女と夫との面会交流をさせる義務を負う。当該義務の履行を確保するために、間接強制として、妻に対し、当該義務が履行されない場合には相当と認める額の金銭を夫に支払うよう命じることができる。長女の強い拒否的感情その他の感情があるとしても、本件においては、間接強制として、妻に一定の金銭の支払いを命じること自体はやむを得ない。間接強制金については、不履行1回につき8000円とする。

 妻は、上記内容の原決定に対し、執行抗告をした。

決定の概要

 間接強制命令を発するためには、債務者の意思のみによって実現できる債務であることが必要である。

 本件では、長女は既に10歳であり、面会を拒む意思を強固に形成しており、妻が面会を働きかけても限界があるといわざるを得ない。このような状況下で、妻に対し、父子面会を実現させるために更なる努力を強いることは相当ではなく、このような努力を強いても、それが奏功する見込みがあるとはいえない。

 そうすると、妻の意思のみによって実現することが不可能な債務であるから、間接強制命令を発することはできない。これを発してみても面会交流の実現に資するところはない。

 よって、原決定を取り消したうえで、夫の間接強制命令の申立てを却下する。

説明

面会交流の不履行がある場合について

 調停、審判、決定や判決で面会交流が認められたにもかかわらず、子を監護養育する者(以下「監護者」といいます)が面会交流をさせる義務(以下「面会交流義務」といいます)を怠った場合、非監護者は、面会交流を実現するために、主に、下記の方法をとることが考えられます。

1 履行勧告(家事事件手続法289条)

 家庭裁判所に対する非監護親の申立てにより、家庭裁判所が、面会交流義務の履行状況を調査したうえ、監護者に対し、調停や審判等の取決めを守るよう書面等で通知します。ただし、この制度に強制力や罰則等はありません。

2 間接強制(民事執行法172条)

 家庭裁判所に対する非監護親の申立てを受けて、裁判所が、一定の期間内に面会交流を実現しなければ面会交流義務とは別に間接強制金を課すことを裁判所が警告することで、監護親に心理的圧迫を与え、自発的な履行を促すものです。間接強制が認められるためには、調停、審判等において、面会交流の日時又は頻度、各界の面会交流時間の長さや子の引渡しの方法等が具体的に特定されていなければなりません。

 なお、面会交流の直接強制は認められていません。

本件について

 裁判所は、別居中の夫からの間接強制の申立てに対し、10歳の長女が面会を頑なに拒んでいることを考慮して、面会交流義務は、妻の意思のみによって実現できる債務ではないとし、夫の当該申立てを却下しました。

 本決定とは別に、最判平成25年3月28日決定では、同様の事案で、妻が夫からの間接強制の申立てを受けて、7歳の長女が拒否していると主張したのに対し、子が面会交流を拒絶する意思を示していることは、間接強制の妨げとなるものでない、と判断されました。

 本決定は、上記決定(以下「最高裁決定」といいます)と矛盾しているようにも思えます。

しかし、本決定では子の年齢が10歳であるのに対し、最高裁決定では7歳であり、物事を認識・判断する能力等に大きな差があると思われます。また、仮に、監護親が面会交流に対してマイナスのイメージを持っていたとしても、小学校に入学したばかりの7歳の子よりも、小学校に入学してより多くの人々と関わってきた10歳の子の方が、監護親の意思の影響も受けにくいはずです。最高裁決定が、このように子の年齢を考慮したうえで、判断したものだと考えると、本決定とは矛盾しません。

 家事事件手続法65条が、子の年齢及び発達の程度に応じてその意思を考慮すべき旨定めていることからも、10歳の子の意思を尊重した本決定は、子の利益に十分に配慮した判断だと思います。

補足

その後、大阪家裁平成28年2月1日決定は間接強制を認めています。

コラム「子供が面会交流を嫌がった場合の間接強制」参照