不貞慰謝料の求償権行使に関する東京地判平成17.12.21

 コラム「不貞をした夫に対する慰謝料免除の効力に関する最高裁平成6.11.24」で紹介しましたように最高裁平成6年11月24日判決は、不貞行為を行った夫と相手方女性が負担する損害賠償債務は、いわゆる不真正連帯債務であって連帯債務ではないから、その損害賠償債務については連帯債務に関する民法437条の規定は適用されず、夫に対する免除の効力は相手方女性には及ばないとしました。

 しかし、不真正連帯債務の場合も、一方の債務者が債権者に支払った場合、その債務者は他の債務者に対してその負担部分につき求償権を行使できるとされています。

 この問題につき、実際に、他人の妻と不貞した男性が妻に求償権を行使した珍しい裁判例がありますのでご紹介します。

東京地裁平成17年12月21日

事案の概要

①A男とY女は夫婦である。

②Y女とX男が不貞し、A男がX男に慰謝料請求訴訟を提起し、判決で164万円認容され、X男はA男に支払った。

③その後、X男がY女に対し求償権として150万円を請求した。

判決

 次のように述べてX男の請求を70万円認めた。

「共同不法行為者は、連帯して損害賠償債務を負うべきところ、被害者に損害を賠償した加害者が全面的に責任を負担するのは公平ではなく、損害賠償の先後にかかわらず、被害者に損害を賠償した一方の加害者から他方の加害者に対して求償を認めることが公平にかなうものといえる。そうすると、各自の負担部分を超えて被害者に賠償した加害者は、超えた部分につき他の加害者の負担部分の範囲において求償することができることになるというべきである。したがって、X男は、X男が負担部分を超えて支払った部分に対して求償することができるものというべきである。」

「Y女の負担割合を検討するに、・・・・・事情を総合勘案すると、X男が不貞行為に導いたと評価できるので、Y女には70万円を限度として負担させるのが相当である。」

コメント

 上記の事例では、A男とY女の婚姻関係が継続していて財布が一つなら、A男がX男から慰謝料の支払いを受けても、X男のY女に対する求償権行使により一部を取り返される結果となってしまいます。

 実際に不貞慰謝料を請求する場合、この点も考慮する必要がありそうです。

(弁護士 井上元)