婚費・養育費・不貞慰謝料と破産免責

 債務を負った者が破産手続をとると、最終的に、免責不許可事由がない限り免責許可決定を受けることができ(破産法252条)、その債務は支払わずによいことになります。

 しかし、免責許可決定が出されても、免責の効力が及ばないとされる債権があり、非免責債権と呼ばれています。典型的なのが税金です(破産法253条1項1号)。

 夫婦に関連するものとしては、婚姻費用、養育費、不貞相手に対する慰謝料などがありますが、これらはどうなるのでしょうか?

婚姻費用・養育費と免責

 婚姻費用は破産法253条1項4号ロ「民法760条の規定による婚姻から生ずる費用の分担の義務」に、養育費は同号ハ「民法766条の規定による子の監護に関する義務」にそれぞれ該当し、非免責債権であると規定されています。

 したがって、(元)夫が破産しても、婚姻費用や養育費の請求権は免責になりません。

不貞相手に対する慰謝料請求権と免責

 不貞相手に対する慰謝料請求権については、破産法253条1項2号「破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」に該当するか否かの問題となります。

 法律で規定されている「悪意」とは知っていること、「善意」は知らないことと言う意味ですが、破産免責に関する上記規定の「悪意」とは、「単なる故意ではなく、不正に他人を害する意思ないし積極的な害意」であると解されています(旧破産法下における東京地裁平成13年5月29日判決、神戸地裁明石支部平成18年6月28日判決)。

 したがって、不貞慰謝料については、相手方女性に対する慰謝料請求権が非免責債権になるためには、相手方女性が単に男性に妻がいるということを知っていただけでは足りず、「害意」が必要ということになります。

東京地裁平成28年3月11日判決

 同判決は、当該事案において不貞を行った相手方女性には「害意」はないとして破産手続における免責許可決定により免責されたと判断しました。

「破産法253条1項2号は『破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権』は非免責債権である旨規定するところ、同項3号が「破産者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権(前号に掲げる請求権を除く。)と規定していることや破産法が非免責債権を設けた趣旨及び目的に照らすと、そこでいう『悪意』とは故意を超えた積極的な害意をいうものと解するのが相当である。本件においては、上記認定及び説示したとおり、被告の、Aとの不貞行為の態様及び不貞関係発覚直後の原告に対する対応など、本件に顕れた一切の事情に鑑みると、被告の不法行為はその違法性の程度が低いとは到底いえない。しかしながら他方で、本件に顕れた一切事情から窺われる共同不法行為者であるAの行為をも考慮すると、被告が一方的にAを篭絡して原告の家庭の平穏を侵害する意図があったとまで認定することはできず、原告に対する積極的な害意があったということはできない。原告の被告に対する慰謝料請求権は破産法253条1項2号所定の非免責債権には該当しないといわざるを得ない。」

コメント

 上記東京地裁平成28年3月11日判決は、不貞慰謝料が必ず非免責債権に該当すると言っているわけではなく、事案を分析したうえで、当該事案においては非免責債権に該当するとしたものです。不貞慰謝料の場合、どのような事情があれば「害意」があったとされるのかは個別の判断となります。

(弁護士 井上元)