外国籍の夫が海外に出たまま行方不明の場合(送達条約等なし・国際離婚)

 離婚を考えているが、外国籍の夫が海外に出たまま、日本に戻ってこず、夫の居住場所も分からないケースがあります。離婚訴訟を起こそうにも、そもそも日本国内で訴訟手続きができるのか(国際裁判管轄)や、訴状の送達先はどこになるのかといった問題があります。

1 国際裁判管轄

 国際的な離婚に関する国際裁判管轄は、原則として被告の住所地となります。そのため、海外にある相手方の住所地で手続きをしないといけませんが、日本国内に残された方としては困難です。

 最高裁判所は、例外的に日本に認められるべき場合を示しており、そのような場合にあたる場合には例外的に日本国内で手続きをすることができます。

最高裁昭和39年3月25日判決(民集18巻3号486頁)

「離婚の国際的裁判管轄権の有無を決定するにあたっても、被告の住所がわが国にあることを原則とすべきことは、訴訟手続上の正義の要求にも合致し、また、いわゆる跛行婚の発生を避けることにもなり、相当に理由のあることではある。しかし、他面、原告が遺棄された場合、被告が行方不明である場合その他これに準ずる場合においても、いたずらにこの原則に膠着し、被告の住所がわが国になければ、原告の住所がわが国に存していても、なお、わが国に離婚の国際的裁判管轄権が認められないとすることは、わが国に住所を有する外国人で、わが国の法律によっても離婚の請求権を有すべき者の身分関係に十分な保護を与えないこととなり(法例16条但書参照)、国際私法生活における正義公平の理念にもとる結果を招来することとなる。」と判示し、被告の住所が日本になくても原告の住所が日本にあれば日本の裁判所に渉外離婚の国際裁判管轄が認められる例外事由として①被告が原告を遺棄した場合②被告が行方不明の場合等を挙げています。

最高裁平成8年6月24日判決(民集50巻7号1451頁

「離婚請求訴訟においても、被告の住所は国際裁判管轄の有無を決定するに当たって考慮すべき重要な要素であり、被告が我が国に住所を有する場合に我が国の管轄が認められることは、当然というべきである。しかし、被告が我が国に住所を有しない場合であっても、原告の住所その他の要素から離婚請求と我が国との関連性が認められ、我が国の管轄を肯定すべき場合のあることは、否定し得ないところであり、どのような場合に我が国の管轄を肯定すべきかについては、国際裁判管轄に関する法律の定めがなく、国際的慣習法の成熟も十分とは言い難いため、当事者間の公平や裁判の適正・迅速の理念により条理に従って決定するのが相当である。そして、管轄の有無の判断に当たっては、応訴を余儀なくされることによる被告の不利益に配慮すべきことはもちろんであるが、他方、原告が被告の住所地国に離婚請求訴訟を提起することにつき法律上又は事実上の障害があるかどうか及びその程度をも考慮し、離婚を求める原告の権利の保護に欠けることのないよう留意しなければならない。」

2 公示送達

 日本で訴訟手続きができたとしても、訴状が届かなければ訴訟が始まりません。外国に送達する必要がある場合、民事訴訟手続に関する条約や、民事又は商事に関する裁判上及び裁判外の文書の外国における送達及び告知に関する条約などに基づいて送達されることになりますが、上記条約の対象外であり、日本と送達に関する取り決めをしていない国の場合があります。

 また、相手方が海外に出国し、出国先の国名は分かっても(東京入国管理局に弁護士会を通して23条照会)、住所が不明な場合には具体的な送達先は不明です。

 このような場合、公示送達の方法により手続きをすすめることが1つの方法としてあります。公示送達とは相手方の住居所等が分からない場合に、訴状が届いたものとみなす制度です。訴状が実際に相手方に届いていないにもかかわらず、訴状が届いたものとみなす制度ですので、その制度の利用の可否は厳格に判断されます。

 弊所が過去に扱った案件でも、最高裁判所事務総局に過去に事例があるか確認したところ、1件も相手方の出国先の国に訴状を送達例はないとされたもので、公示送達により無事終わったものがあります。

(弁護士 中村友彦)