居住用不動産の共有物分割と離婚財産分与

 離婚する際、夫婦の共有財産である自宅も財産分与の対象となります。例えば、預金(2000万円)とマンション(2000万円相当)があり、妻と子がマンションに居住している場合、夫に預金を妻にマンションを分与するということもできます。

 共有名義の場合、離婚しないまま共有物分割の請求(民法256条、258条)をすることができるのでしょうか?具体的には上記の事案で、夫が夫婦共有のマンション(持分各1/2)から出て別居しており、離婚しないまま、夫から妻に対して共有物分割の請求ができるのでしょうか?共有物を分割するには、妻が夫に価額賠償として1000万円を支払うことができなければ競売され、代金を1/2ずつ取得することになります。当然、妻と子はマンションから退去しなければなりません。

 この問題について判断した裁判例がありますので紹介しましょう。

(1)大阪高裁平成17年6月9日判決(判例時報1938号80頁)

 妻及び子が居住する夫婦共有名義の不動産について、別居中の夫が妻に対してした共有物分割請求権をした事案です。

 判決は、まず、共有物分割請求の当否につき、「本件不動産は、夫と妻の実質的共有財産であることが認められ、その分割方法については、他の夫婦の実質的共有財産と併せて、離婚の際の財産分与手続に委ねるのが適切であることは否定できない。そして、上記のような事情は分割にあたって十分考慮すべきではあるが、夫婦の実質的共有財産ではあっても、民法上の共有の形式を採っている以上、この場合だけ、共有物分割を含む、民法の共有関係の諸規定の適用を一切排除しなければならないとまでは認め難い」としました。

 しかし、「本件不動産は、夫が妻との婚姻後に取得した夫婦の実質的共有財産であり、しかも現実に自宅として夫婦及びその間の子らが居住してきた住宅であり、現状においては夫が別居しているとはいえ、妻及び長女が現に居住し続けているものであるから、本来は、離婚の際の財産分与手続にその処理が委ねられるべきであり、仮に、同手続に委ねられた場合には、他の実質的共有財産と併せてその帰趨が決せられることになり、前記認定に係る、資産状況及び妻の現状からすると、本件不動産については、妻が単独で取得することになる可能性も高いと考えられるが、これを共有物分割手続で処理する限りは、そのような選択の余地はなく、夫が共有物分割請求という形式を選択すること自体、妻による本件不動産の単独取得の可能性を奪うことになる。」とし、結論として、夫の本件共有物分割請求権の行使は権利の濫用に当たると判断して請求を棄却しました。

(2)東京地裁平成17年10月28日判決

 (1)の大阪高裁平成17年6月9日判決と同様に、共有物分割請求は権利の濫用に当たり許されないとして請求を棄却しました。

(3)東京地裁平成17年10月28日判決

「民法は、夫婦財産契約のない夫婦の場合、夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産は、その特有財産とし、夫婦のいずれに属するか明らかでない財産は、その共有に属するものと推定する、といわゆる夫婦別産制を定める(同法762条)とともに、夫婦は、同居し、互いに協力し扶助しなければならない、とし(同法752条)、これは夫婦が共同生活を営んでいくための本質的な義務と解されている。また、夫婦財産の清算については、離婚に伴う財産分与によって(なお、夫婦の一方が死亡したことにより夫婦関係が消滅した場合には相続によって)、実現を図ることが予定されている(民法768条、771条)。

 夫婦別産制によれば、一般に、婚姻期間中であっても、自己の特有財産について処分することは自由であり、また、共有に属する不動産については、いわば共有持分の処分の一方法として、分割協議が調わない場合には、競売を申し立て、これによる売得金を持分に応じて分割することも肯定され、これは、共有に属する不動産が、夫婦ないし家庭の住居として使用されていたり、共有持分を有する者が夫婦であったりした場合にも、特に異なった解釈を施す必要は認めがたいことになろう。

しかし、民法は、他方で、前記のとおり、婚姻中の夫婦につき、相互に同居・協力・扶助という本質的な義務を有するものとしており、更に、婚姻関係が破綻していると認められる場合には、夫婦財産の清算として離婚に伴う財産分与を求める手続が準備され、家庭裁判所が、財産分与につき、協議に代わる処分をする場合には、当事者双方がその協力に得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める(民法768条3項)として、扶養的要素の考慮を含め、全体的、形成的な判断による解決を予定しているのであるから、これらを整合的に解釈すると、夫婦財産の別産制を前提としつつ、前記の観点から、一定の場合に、一定の分割方法が、一定の期間制約を受けることがあることも織り込まれており、これが法の趣旨であるというべきである。」と述べ、本件訴えは現時点において適法性を欠くとして、訴えを却下しました。

 (1)と(2)は権利濫用という一般条項により請求を棄却しましたが、(3)はそもそもこような請求は適法性を欠くとしたのです。

(弁護士 井上元)