不貞をした夫に対する慰謝料免除の効力に関する最高裁平成6.11.24

 X女とA男が夫婦であり、A男とY女が不貞行為を行った場合、X女はA男とY女に対して慰謝料請求をすることができます。

 しかし、X女が、A男とY女に対して、同時に慰謝料請求をすることは余りありません。何故なら、Y女に対して請求できるのは不貞慰謝料だけですが、A男との関係では、離婚、親権、養育費、財産分与、離婚慰謝料、年金分割などの問題があるからです。

 それでは、A男とY女がX女に対して負っている損害賠償債務はどのような関係になるのでしょうか?

 この点、最高裁平成6年11月24日判決が判断していますのでご紹介します。

最高裁平成6年11月24日判決

事案の概要

①X女とA男が夫婦であり、A男とY女が不貞行為を行った。

②X女とA男との間で離婚の調停が成立し、その調停条項には、「本調停条項に定めるほか名目の如何を問わず互いに金銭その他一切の請求をしない」旨の定めがある。

③X女はY女に対し慰謝料300万円を請求した。

原審判決

 本件不法行為に基づく慰謝料は300万円が相当であるが、X女はA男に対して離婚に伴う慰謝料支払義務を免除したものというべきであり、Y女とA男がX女に対して負う本件不法行為に基づく損害賠償債務は不真正連帯債務であるところ、両名にはそれぞれ負担部分があるものとみられるから、調停による債務の免除はA男の負担部分につきY女の利益のためにもその効力を生じ、Y女とA男がX女に対して負う右損害賠償債務のうちY女固有の負担部分の額は150万円とするのが相当であるとした。

上記最高裁判決

 最高裁は、次のように判示し、原審判決を破棄して、慰謝料300万円を認容した1審判決を支持しました

「民法719条所定の共同不法行為者が負担する損害賠償債務は、いわゆる不真正連帯債務であって連帯債務ではないから、その損害賠償債務については連帯債務に関する同法437条の規定は適用されないものと解するのが相当である(最高裁昭和43年(オ)第431号同48年2月16日第二小法廷判決・民集27巻1号99頁参照)。」

 民法437条は「連帯債務者の1人に対してした債務の免除は、その連帯債務者の負担部分についてのみ、他の連帯債務者の利益のためにも、その効力を生ずる。」との規定であるところ、不真正連帯債務の場合には、1人の債務者に対する免除の効力は他の債務者には及ばないとしたのです。

コメント

 上記最高裁判決は、「X女は、本件調停において、本件不法行為に基づく損害賠償債務のうちA男の債務のみを免除したにすぎず、Y女に対する関係では、後日その全額の賠償を請求する意思であったものというべきであり、本件調停による債務の免除は、Y女に対してその債務を免除する意思を含むものではないから、Y女に対する関係では何らの効力を有しないものというべきである。」とも判示し、X女の意思も検討しています。

 したがって、妻が夫との離婚条件を先に決める場合、不貞相手の女性に対する請求をどうするのかも考えて、夫との間の条項を決める必要があります。

(弁護士 井上元)