婚姻費用と住宅ローンに関する東京家裁平成27年6月17日審判

問題の所在

 夫が自宅から転居した後、妻と子供が、夫が住宅ローンの返済を続けている自宅で居住を続けている場合、夫が返済している住宅ローンの額は婚姻費用分担額に影響するのでしょうか。

 裁判所の標準算定方式では、妻も居住費を負担しているとの前提で婚姻費用分担額が定められていますが、上記の事例ですと、妻は夫が住宅ローンを支払っている自宅に無償で居住しているため、その取扱いをめぐって争いが生じることがあります。

東京家庭裁判所平成27年6月17日審判

 上記のような状況で、同審判は次のように判断しました。

「ところで、標準算定表は、別居中の権利者世帯と義務者世帯が、統計的数値に照らして標準的な住居費をそれぞれ負担していることを前提として標準的な婚姻費用分担金の額を算定するという考え方に基づいている。しかるところ、義務者である相手方は、上記認定のとおり、平成26年×月まで、権利者である申立人が居住する自宅に係る住宅ローンを全額負担しており、相手方が権利者世帯の住居費をも二重に負担していた。したがって、当事者の公平を図るためには、平成26年×月までの婚姻費用分担金を定めるに当たっては、上記の算定額から、権利者である申立人の総収入に対応する標準的な住居関係費を控除するのが相当である。」

 そして、控除する額について次のように述べています。

「そこで、平成26年×月までに対応する申立人の総収入200万円を12で割ると、16万6666円(1円未満切捨)となり、これは、上記東京・大阪養育費等研究会「簡易迅速な養育費等の算定を目指して」判例タイムズ1111号285頁以下における294頁の資料2(年間収入階級別1世帯当たり年平均1か月間の収入と支出)の項目199万9999円以下の列における実収入16万4165円に近似するところ、この列における住居関係費(住居の額に土地家屋に関する借金返済の額を加えたもの)は2万7940円である。したがって、平成26年×月までの婚姻費用分担金を定めるに当たっては、標準算定表により算定される婚姻費用分担金の標準額から2万7940円を控除するのが相当である。」

コメント

 夫が住宅ローンを返済している自宅に妻が居住している場合の婚姻費用分担額については、いつくかの考え方があるようですが、上記審判の考え方が主流ではないかと思いますので参考にしてください。

(弁護士 井上元)