婚姻費用と養育費の算定~基礎収入と潜在的稼働能力

 婚姻費用や養育費を算定する方法は、子供の生活費を夫と妻双方の基礎収入で按分して算出しますが、一方が働くことができるのに働かない場合、基礎収入はどのようにして決めるでしょうか?

 福岡家裁平成18年1月18日審判(家庭裁判月報58巻8号80頁)は、夫が勤務先を退職し収入が無くなったのであるから養育費について免除されるべきであると主張して免除を求めた事案において、「夫は、前件審判時から、強制執行を受けた場合には勤務先を退職して抵抗する旨の意向を有していたところ、現に強制執行を受け、裁判所により強制的に支払わされることに納得できなかったために、勤務先を退職したのであり、稼動能力は有していると認められる。そもそも、未成年者らの実父である夫は、未成年者らを扶養し、未成年者らを監護する妻に対し養育料を支払うべき義務があるところ、前件審判において、養育料の支払を命ぜられたにもかかわらず、一度も任意に履行せず、強制執行を受けるやそれを免れるために勤務先を退職したのであるから、夫が現在収入を得ていないことを前提として養育料を免除するのは相当ではなく、夫が潜在的稼動能力を有していることを前提として、勤務を続けていれば得べかりし収入に基づき、養育料を算定するのが相当である。」と判断しています(なお、判文からは明らかではありませんが、申立人を夫、相手方を妻と読み替えています)。

 一方、東京家裁平成22年11月24日審判(家庭裁判月報63巻10号59頁)は、夫が、「妻の収入について、妻はより多額の収入を得るための努力をすべきであり、賃金センサスによれば、妻は、その学歴に照らし少なくとも375万円の年収を得ることが期待できるから、本件においては、実収入を前提とすべきではない」と主張する事案において、「確かに、妻の学歴からすれば、妻が現在よりも高収入の職に就くことのできる可能性が相当程度認められ、年少の子を養育しているなど、その求職活動を妨げる事情は特に見あたらない。しかし、妻は、現にその学歴等を生かして大学の非常勤講師として稼働しているのであるから、その潜在的稼働能力に従った努力を怠っているとは言い難く、本件において、妻の収入について、実収入ではなく、賃金センサス等に基づく統計値を用いるべき事情は特に認められない。」と判断しました。

 養育費や婚姻費用の算出において、単に自分には収入がないというだけではだめで、潜在的稼働能力があれば相応の収入があると判断されるということです。

参考記事

コラム「養育費と潜在的稼働能力につき判断した東京高決28.1.19 」

(弁護士 井上元)