別居期間が9年に及ぶ有責配偶者からの離婚請求が棄却された事例

1 原則

 最高裁昭和62年9月2日判決は、不貞を行ったなど婚姻関係の破綻につき責任のある配偶者からの離婚請求であっても離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情のない限り、有責配偶者からの請求であるとの一事をもって許されないとすることはできないとしましたが、一定の別居期間がないと、有責配偶者からの離婚請求は認められていません。

2 仙台高裁平成25年12月26日判決

 仙台高裁平成25年12月26日判決は、有責配偶者からの離婚請求について次のように判断して離婚請求を認めませんでした。事例判決として参考になりますのでご紹介しましょう。尚、控訴人を妻、被控訴人を夫と読み替えます。

【判旨】

 妻と夫の別居期間が約9年4か月であるのに対し、両名の婚姻後の同居期間が約18年6か月に及び、また、現在、妻は51歳(別居当時41歳)で、夫は52歳(同43歳)であり、別居期間が同居期間や各自の年齢に比して相当の長期間に及んでいるとまでは認められないこと、そして、夫が妻に提示する前記のような金銭的給付については、夫が相当程度の収入を得ながら確定審判により支払を命ぜられた婚姻費用の支払をせずに、そのため妻は夫の給与の差押えにまで及んでいることに照らすと、夫が給付を約束する将来支払分の履行に不安が残るといわざるを得ないこと、このような状況の下で、妻は、夫と離婚した場合、その心身などの状態や経済状態からして、精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状況に置かれると推察されることを総合考慮すると、いわゆる有責配偶者である夫からの本件離婚請求は、信義誠実の原則に照らし許されないといわざるを得ない。

3 コメント

 同案件では、上記の事情の他に、妻がうつ病で稼働していないこと、少なくない負債を抱えていること、二男がまだ大学生で社会人となるまで少なくとも1年以上を残していること、等の事情も指摘されています。

(弁護士 井上元)