妻による婚姻費用分担請求に際し夫が子を養育していた期間の養育費を控除すべきか?

婚姻費用と養育費

 婚姻費用分担請求については、妻が子供を連れて別居中、夫に対して請求する事案が多いものと思われます。

 この場合、婚姻費用には、子の監護費用、すなわち養育費も含まれます。これに対し、夫が子を養育している場合には、夫から妻に支払われる婚姻費用には養育費は含まれないことになります。

 一般的には上記のとおりですが、夫が子を養育していた期間中の婚姻費用であっても、夫が妻に支払うべき婚姻費用から養育費は控除されないとした裁判例がありますので、ご紹介しましょう。

東京高等裁判所平成24年12月28日決定

 別居中の妻が、長男及び長女を1泊との予定で夫に委ねたところ、夫が妻に対する連絡を絶ち、3か月余にわたり長男および長女を妻のもとに戻さなかったという事案で、妻が夫に対し婚姻費用分担の申立を行いました。

 原審の横浜家庭裁判所平成24年9月18日審判は、夫が養育していた期間においても妻が養育していたとの前提で婚姻費用の算定をしました。夫からの抗告に対し、上記東京高裁決定は次のとおり述べ、夫の抗告を棄却しています。

「妻が1泊の予定で長男及び長女を夫に委ねたところ、夫は、連絡も絶ち、長期間、長男及び長女を相手方のもとに戻すことを拒んできたことによるものであるから、この間の事実上の養育が抗告人によってされたからといって、その間の費用を減額したり、支払を拒むことは、信義則上許されないものと判断される。」

 婚姻費用の問題も、状況に応じて様々な判断がなされることに留意が必要です。

(弁護士 井上元)