年金分割制度の概要及び手続について

 今回は、相談者の方々からよく尋ねられる年金分割制度の概要及び手続等について、ご説明します。年金制度の概要、離婚後の年金保険料、年金分割制度の概要及び方法、その後の手続、合意分割と3号分割との関係、年金分割の効果、の順にご説明します。

1 年金制度の概要

年金制度について

 現行年金制度は、20歳以上60歳未満の全国民が強制的に加入を義務付けられている①「国民年金(=基礎年金)」を1階部分として、②「被用者年金(=厚生年金)」(2階部分)、③「企業年金」(3階部分)の3階建て構造となっています。

 ②の「被用者年金」とは、民間企業や官公庁等に雇用されている者(民間企業の会社員、公務員、及び教職員等)が加入する年金です。③の「企業年金」とは、企業がその実情に応じ、従業員を対象に実施する年金制度であり、代表的なものとして、「厚生年金基金」、「確定給付企業年金」、及び「確定拠出年金」があります。

 なお、現行年金制度は、改正法が施行された平成27年10月1日以降のものですが、改正前の法律の下では、被用者年金としては、「厚生年金」(現行制度の「厚生年金」とは意味が異なり、民間企業の会社員等が加入する年金のみを指します)と「共済年金」(公務員及び教職員等が加入する年金)の2種類がありました。

加入者の種類等について

 現行の年金制度は、前述のように、全国民が国民年金制度(1階部分)に加入し、国民年金(=基礎年金)の給付を受けるとともに、さらにそれぞれの職業等に応じて、第1号被保険者ないし第3号被保険者の被保険者に分類し、いずれの上乗せ制度(2階部分、3階部分)に加入するかを定めています。

 第1号被保険者に分類される者は、下記の第2号被保険者、第3号被保険者以外の者(自営業者、農業従業者等、及びこれらの者の配偶者等)であり、国民年金(1階部分)に加入することとなります。第1号被保険者の保険料は、全額自己負担です。ただ、第1号被保険者のうち、専業主婦等(主として配偶者の収入により生計を維持する者)の保険料については、婚姻中は、実質的に当該配偶者が負担することとなります。

 第2号被保険者に分類される者は、民間企業に勤務する会社員等、公務員、及び教職員等であり、国民年金(1階部分)及び厚生年金(2階部分)に加入することとなります。第2号被保険者の保険料については、被保険者の使用者と被保険者が折半で負担します。

 第3号被保険者に分類される者は、専業主婦等(第2号被保険者の配偶者で、主として第2号被保険者の収入により生計を維持する者)であり、国民年金(1階部分)に加入することとなります。第3号被保険者の保険料については、婚姻中は、配偶者(第2号被保険者)の所属する年金制度(厚生年金)が負担するので、第3号被保険者本人は当該保険料を負担しません。

 したがって、夫の職業にかかわらず、専業主婦である妻は、国民年金に加入することとなります。一方、妻が専業主婦ではない場合、その職業に応じて上記いずれかの被保険者に分類されます。妻が自営業者、及び農業従業者等であるときは、国民年金に加入することとなります。妻が民間企業に勤務する会社員等、公務員、及び教職員等であるときは、国民年金及び厚生年金に加入することとなります。

 以下のホームページに、年金制度の内容やその変遷について記載がされています。興味のある方は、そちらもご覧ください。

   地方公務員共済組合連合会のHP

http://www.chikyoren.or.jp/nenkin/pdf/nenkin_touitu.pdf

老後の年金の給付

 国民年金(1階部分)に25年以上加入し、当該保険料を納付している場合、原則として、65歳から老齢年金(老齢基礎年金、老齢厚生年金)を受給することができます。

 もっとも、生活の基本的な部分に対応する老齢基礎年金(国民年金)は、夫婦に対して、それぞれ支給されますが、夫婦の一方のみが働き、厚生年金(2階部分)にも加入している場合、被保険者である当該夫婦の一方のみが老齢厚生年金(厚生年金)の受給権者であり、他の一方は、当該老齢厚生年金について権利を有しません。国民年金のみに加入している者(第1号被保険者、及び第3号被保険者)は、厚生年金にも加入している者(第2号被保険者)と比べて、受給することができる年金額が相当低額となります。

 また、老齢厚生年金の給付額は、被保険者の標準報酬を基礎として算定されるため、厚生年金に加入していたとしても、就労期間が短期間であったり報酬が低額であった者は、十分な金額の老齢厚生年金を受給することができない可能性があります。

 したがって、夫の職業にかかわらず、専業主婦である妻は、比較的低額である老齢基礎年金についてのみ、受給権を有します。妻が民間企業に勤務する会社員等、公務員、及び教職員等であり、老齢厚生年金も受給することができる場合であっても、一般的に夫婦間で収入格差があることが多く、年金額が低額となる可能性があります。

 婚姻を継続していれば、妻の年金額が低額であっても、実質的には、生計を同じくする夫の年金で不足分を賄うことができますが、離婚した場合、元夫の同意がない限り、このような補填をすることはできません。そうすると、元妻は、自身の年金だけでは、老後に十分な所得水準を確保することができない可能性があります。

2 離婚後の年金保険料

 婚姻中第2号被保険者(民間企業の会社員等、公務員、及び教職員等)であった者を除 き、離婚に伴い、年金加入者種別の変更が生じる場合が多いです。具体的には、以下のとおりです。

 婚姻中第1号被保険者(自営業者、農業従事者等、及びこれらの者の配偶者等)であった者は、離婚により姓を変更した場合、年金手帳及び印鑑等を持参し、市区町村役場に対し、国民年金氏名変更届を提出します。婚姻中第3号被保険者(夫が第2号被保険者である専業主婦等)であった場合、離婚に伴い、第3号被保険者の地位を失うため、離婚後直ちに第2号被保険者になる場合(民間企業等に勤務する場合)を除き、市区町村役場に対し、第1号被保険者への変更手続をとらなければなりません。

 いずれの場合であっても、下記の年金分割をしたか否かにかかわらず、離婚後、元妻は、保険料を自らの負担により納付しなければなりません。

3 年金分割制度の概要及び方法

 年金分割制度とは、前述のように離婚後の老齢年金の受給額に格差が生じる可能性が高いことを考慮し、公平の観点から、離婚時に、当該格差を是正し、多い方の年金保険料納付記録を分割して少ない方へ移転する制度をいいます。

 具体的には、夫婦の婚姻期間中(婚姻から離婚までの期間)のそれぞれの厚生年金(2階部分)の保険料納付記録を合算したものを夫婦間で分割します。年金自体を分割するわけではありません。当該記録上の分割を受けた側は、分割された分の保険料を既に納付したと扱われ、当該記録に基づき算定された老齢厚生年金を将来受給することとなります。なお、分割対象の納付記録は、厚生年金(2階部分)の部分に限られます。国民年金(2階部分)や企業年金(3階部分)の部分は、分割の対象ではなく、これらの不公正の是正は、財産分与という別の手続において行われます。

 年金分割の方法としては、分割対象期間等により、大きく分けて以下の2つがあります。

平成20年3月以前の婚姻期間分について

 夫婦間の合意、あるいは家庭裁判所の調停、審判又は判決により、按分割合(婚姻期間中の保険料納付記録の夫婦の合計額のうち、分割を受ける側の分割後の持分割合)が決まります。これを合意分割といいます。具体的には、以下のとおりです。

 夫婦間の合意により按分割合を定めた場合には、公正証書、又は公証人の認証を受けた私署証書によって、合意した按分割合を明らかにしなければなりません。その際、①夫婦それぞれの氏名、生年月日、及び基礎年金番号、②年金分割の請求をすることにつき夫婦間で合意が成立した旨、③夫婦間で合意した按分割合、の記載が必要です。当該証書は、その後の手続での必要添付書類となります。

 夫婦間の協議で按分割合の合意に至らなかった場合には、夫婦の一方が家庭裁判所に対し、年金分割を求める申立てをし、(a)調停手続(同法244条)、(b)審判手続(家事事件手続法39条・別表第2の15項)、(c)人事訴訟手続のいずれかの手続により、家庭裁判所が按分割合を定めることとなります。これにより作成された調停調書、審判書等は、その後の手続での必要添付書類となります。家庭裁判所の審判又は判決による場合、按分割合は2分の1とされるのが通常です。当該調停、審判、及び裁判においては、後述する「年金分割のための情報通知書」の提出が必要となるので、事前に当該書面を入手しておいた方が良いと思います。

平成20年4月以降の婚姻期間のうち、夫婦の一方が第3号被保険者(夫が第2号被保険者である専業主婦等)である期間分について

 夫婦の一方からの請求により、第2号被保険者の保険料納付記録の2分の1が、自動的に、第3号被保険者に分割されます。これを3号分割といいます。

 平成20年3月以前に婚姻した場合の分割対象期間については、合意分割部分と3号分割部分の両者がある可能性があります。

情報提供請求

 年金分割をするか否かということや請求すべき按分割合の内容について離婚当事者が判断するためには、当事者において分割に必要な一定の情報を把握することが必要となります。

 夫婦の一方又は双方が、年金手帳、印鑑、及び戸籍謄本等を持参し、現住所を管轄する年金事務所に対し、「年金分割のための情報通知書」という書面の発行を請求し、これを受領することにより、必要な情報の提供を受けることができます。

 なお、情報提供の請求をした者のうち、満50歳以上の者については、年金分割をしない場合の年金見込額、年金分割をした場合の年金見込額等の情報の提供を受けることができます。

4 その後の手続

 夫婦間の合意、又は裁判手続により按分割合を定めたとしても、日本年金機構に対し、分割改定請求をしない限り、年金分割は行われません。

 分割改定請求は、離婚当事者の一方が請求者となり、必要書類(公正証書、調停調書、審判書等を含む)を添付し、請求者の現住所を管轄する年金事務所に対し提出することにより、することができます。

 分割改定請求を受けた年金事務所は、按分割合に基づき、離婚当事者それぞれの保険料納付記録の改定等を行ったうえで、改定後の保険料納付記録を年金分割請求者とその相手方に対し、通知する扱いとなっています。

 当該分割改定請求は、原則として、離婚成立時から2年以内(審判等により2年を経過した場合には、審判等が確定した日から1か月以内)に行わなければなりません。

5 合意分割と3号分割との関係

 平成20年4月以降に離婚した場合で、平成20年3月以前の対象期間を含めて年金分割改定請求を行った場合、同時に3号分割請求をしたものとみなされます。逆に、平成20年4月以降に離婚した場合で、3号分割の分割改定請求を行った場合、平成20年4月以降の特定期間についてのみ、3号分割が行われることとなります。

6 年金分割の効果

 年金分割後に分割を行った元配偶者が死亡した場合でも、自身の年金受給に影響は及びません。

 もっとも、年金分割を受けた場合であっても、自身が老齢に達し、かつ老齢年金受給資格(原則として国民年金保険料の25年以上の納付事実)を満たさなければ、老齢厚生年金は支給されません。

(東京弁護士会法友全期会家族法研究会『離婚・離縁事件実務マニュアル(第3版)』240~251頁(ぎょうせい)、二宮周平、榊原富士子『離婚判例ガイド(第3版)』147~149頁(有斐閣)、秋武憲一、岡健太郎『離婚調停・離婚訴訟(改訂版)』203~216頁(青林書院)参照)