養育費による給料差押え中の債務者破産

 離婚した後、元妻(X)が元夫(Y)から、子Aの養育費の支払いを受けることになっていたところ、支払いが滞り、給与を差押えたものの、Yが自己破産してしまったというケースでは、給与差押手続きはどうなるのでしょうか?

モデルケース

1 Xは、Yと調停離婚し、調停調書において、YはXに対し「子Aの養育費としてAが成人に達する平成35年12月まで毎月末日までに月額5万円を支払う。」との約束をした。

2 Yからの支払いが滞ったため、Xは、平成○○年○月、滞納していた養育費と将来の養育費請求権を請求債権としてYの給料を差し押さえた。給料支払日は毎月25日であった。

3 ところが、Yは、平成29年4月10日、破産手続開始決定を受け、破産管財人が選任された。

4 破産手続開始決定の時点において、未払い養育費は50万円であり、更に、平成29年4月末から毎月5万円の養育費が新たに発生する状況であった。

未払い養育費は50万円について

 未払い養育費は50万円については破産債権に該当しますので、破産管財人の申立てにより給料差押えは取り消され、Xはこの給与差押手続きでは回収できなくなります(破産法42条2項)。

 ただし、養育費は非免責債権なので(破産法253条1項4号ハ)、破産手続き後、新たに給料差押えをすることができます。

平成29年5月末以降に発生する養育費

 破産法42条2項で効力を失う給料差押え手続きは、「破産財団に属する財産に対して既にされているもの」です。平成29年5月末に発生する養育費で差し押さえる給料は平成29年6月25日支給分ですので、この給料は破産財産に属しません。

 また、平成29年5月末以降に発生する養育費は、破産手続開始決定後に発生する債権ですから、破産債権にも当たりません。

 したがって、平成29年5月末以降に発生する養育費債権に基づいて、平成29年6月25日以降に支給される給料の強制執行は効力を失うことなく、そのまま回収することができます。

平成29年4月末に発生した養育費5万円

 平成29年4月末に発生した4月分の養育費5万円については、破産手続開始決定時までの分(丁度半分なら2万5000円)と決定後の分(丁度半分なら2万5000円)に分かれます。前者は破産債権ですが、後者は破産決定後に発生した債権ですから破産債権ではありません。

 したがって、破産管財人の申立てにより、給与差押決定は前者についてのみ取り消されることになり、「未払い養育費は50万円」と同じことになります。

 後者については、「平成29年5月末以降に発生する養育費」と同じことになり、そのまま回収できることになります。

実際のケース

 事案は大幅に変えていますが、同様のケースで上記のような処理となりました。上記のケースは破産管財人が選任されたケースですが、同時廃止の事案では多少、手続きが異なってきます。

 レアケースであり、専門家にとっても難しいところですので、参考にしていただければと思います。

(弁護士 井上元)