財産分与の合意・慰謝料支払約束は自由意思に基づいたものではなく無効とされた事例

 離婚に際し、夫婦の一方が相手方に財産を分与したり、慰謝料を支払うとの約束をすれば、この約束は原則として有効ですが、例外的に無効となることがあります。

 仙台地裁平成21年2月26日判決(判例タイムズ1312号288頁)は、夫が、財産分与の合意・慰謝料支払約束に基づき、妻に対して不動産につき所有権移転登記手続および慰謝料支払いと求めた事案ですが、判決は、次のように述べて夫の請求を棄却しました。

 「本件財産分与合意書及び本件慰謝料等支払約束書は、いずれも、夫が、妻の不貞行為を責める態度に終始し、妻に対する暴力を繰り返し、妻を自己のコントロール下に置いた上で、妻をして夫の指図どおりの内容で本件財産分与合意書及び本件慰謝料等支払約束書を作成させたものであって、妻の自由意思に基づいて作成された文書ではないと認めるのが相当である。したがって、本件財産分与合意書及び本件慰謝料等支払約束書に表示された妻の意思表示は、意思表示としての効力を有さず、いずれも無効というべきである。」

 上記事案はレアケースだとは思いますが、離婚合意書を作成する際には後で無効だと主張されることのないよう慎重に作成しましょう。

(弁護士 井上元)