令和元年12月改定の養育費・婚費算定表はいつから適用されるのか?

 平成15年、養育費・婚費の算定方法につき、いわゆる「標準算定方式・算定表」が公開され、以降、実務上、この「標準算定方式・算定表」に基づき養育費・婚費が算定されてきました。
 そうしたところ、令和元年12月、「改定標準算定方式・算定表(令和元年版)」が公表され、以降、改定標準算定方式・算定表に基づき養育費・婚費が算定されています。
 それでは、令和元年11月以前の養育費・婚費が未だ決まっていない場合、旧標準算定方式・算定表の改定標準算定方式・算定表のどちらに基づいて算定されるのでしょうか?
 この点、宇都宮家庭裁判所令和2年11月30日審判が、改定標準算定方式・算定表に基づいて算定されると判断していますのでご紹介します。

宇都宮家審令和2・11・30判時2516号87頁・判タ1497号251頁

 相手方は、法の不遡及の原則に照らし、改定算定表はその公表後である令和元年12月23日以降の婚姻費用分担額について適用されるべきであり、同日より前に生じた婚姻費用については算定表を用いるべきである旨主張したところ、裁判所は次のように判断しました。

審判

 婚姻費用分担額を算定するに当たっては、「資産、収入その他一切の事情を考慮して」(民法760条)、合理的な分担額を定めるのが相当であるところ、改定標準算定方式及び改定算定表は、そもそも法規範ではなく、標準算定方式及び算定表と同様、婚姻費用分担額等を算定するに当たっての合理的な裁量の目安であると認めるのが相当である。
 また、改定標準算定方式及び改定算定表は、標準算定方式及び算定表の提案から15年余りが経過していることから、公租公課、職業費、特別経費の割合及び子等の生活費指数の基礎となる税制等の法改正、社会情勢の変化及び生活保護基準の改定等を受けて、現在の家庭の収入や支出の実態等、より現状の社会実態に即したものといえるから(前記司法研究報告書参照)、本件においても改定標準算定方式及び改定算定表に基づいて算定するのが相当である。
 さらに、改定標準算定方式及び改定算定表公表前である令和元年12月以前の未払の婚姻費用分担額についても、前記のとおり、改定標準算定方式及び改定算定表が、あくまでも婚姻費用分担額等を算定するに当たっての合理的な裁量の目安であることに照らせば、当事者間で標準算定方式及び算定表を用いることの合意が形成されているなどの事情がない限り、改定標準算定方式及び改定算定表による算定に合理性が認められる以上は、その公表前の未払分を含めて、改定標準算定方式及び改定算定表により婚姻費用分担額を算定するのが相当である。そして、改定標準算定方式及び改定算定表は、前記のとおり、税制等の法改正や生活保護基準の改定等を踏まえて、現状の社会実態を反映させたものであるところ、公租公課に関する税率及び保険料率については、平成30年7月時点のもの、職業費に関する統計資料としては、標準算定方式及び算定表の提案当時の資料に相当する資料のうち平成25年から平成29年までの平均値を用いたもの、特別経費に関する統計資料についても、職業費と同様に平成25年から平成29年までの平均値を用いたもの、ならびに生活費指数の算出のための生活保護基準及び学校教育費に関する統計資料については、基本的には平成25年度から平成29年度までのもの(ただし、学校教育費のうち子が15歳以上の区分については、平成26年度から平成29年度までのもの)をそれぞれ用いるなどして算出した結果を取りまとめたものである(前記司法研究報告書参照)。
 以上によれば、改定標準算定方式及び改定算定表は、本件において未払の婚姻費用を算定するに際しても、当時の社会実態を踏まえて、これを反映させた考え方であるといえ、十分な合理性を有するものと認められる。
 したがって、本件婚姻費用分担額を算定するに当たっては、未払分を含めて、改定標準算定方式及び改定算定表を用いるのが相当である。相手方の前記主張は採用の限りでない。
 
(弁護士 井上元)