婚姻関係破綻の時期について判断した東京高裁平成17年6月22日判決

 最高裁平成8年3月26日判決は、第三者が配偶者の一方と肉体関係を持った場合に、その第三者は他方の配偶者に対して不法行為責任を負うが、その当時婚姻関係が既に破綻していたときは特段の事情のない限り第三者は不法行為責任を負わないと判示していますが、婚姻関係破綻の時期について判断した裁判例を紹介しましょう。

東京高裁平成17年6月22日判決(判例タイムズ1202号280頁)
【事案の概要】

  1. 夫と妻は昭和61年9月13日に婚姻し、2子をもうけたが、平成元年ころから夫婦仲が悪化していた。
  2. 妻は、平成8年ころからコンビニエンスストアで働くようになり、平成9年夏ころ、その客であった男性と知り合った。
  3. 平成11年初めころ、妻は長年にわたる夫からの暴力に耐えかねて離婚届用紙を入手したり、家を出てアパートを借りる契約をして、夫に離婚を求め、夫も一旦離婚届用紙に署名押印したものの提出までには至らなかったが、このころには、妻の婚姻継続意思は、かなり希薄になりつつあった。
  4. 妻は、悩み事の相談相手である男性と平成11年6月ころから性的関係を持ち始め、同月27日単身家出をして以来男性と同棲を開始継続しており、以後夫とは没交渉となった。妻と夫との性的関係は、妻が家を出た日の1~2日前日が最後であった。
  5. 妻は、離婚調停を申し立てたが、夫が離婚を拒否したため、平成11年11月29日に取り下げた。
  6. 男性と妻は、平成11年10月ころからアパートを借りて同棲するようになり、平成12年4月5日、男性と妻との間に子が生まれた。
  7. 夫は、平成12年5月ころ、妻と男性が同棲しているアパートに赴き、妻に家に戻るように求めたが、妻は夫からの修復要請を無視した。
  8. 妻は、子について、夫を相手に親子関係不存在確認の訴えを提起し、平成12年9月2日には親子関係不存在確認の裁判が確定し、同月7日、男性が子を認知し男性戸籍に記載した。
  9. このような状況で、夫は、平成16年5月6日、男性に対して慰謝料を請求する訴訟を提起したところ、男性は、夫と妻の婚姻関係は平成11年6月ころ遅くとも平成12年9月ころには破綻していたと主張し、消滅時効(3年)の援用をした。

【原審判決】
婚姻関係が破綻したのは別居(平成11年6月)から3年が経過した平成14年6月末ころであるとし、平成13年5月6日から平成14年6月末日までの同棲行為に対する慰謝料として100万円の支払を命じました。

【控訴審である上記東京高裁判決】
遅くとも平成12年9月2日には夫と妻の婚姻関係は完全に破綻したと認定し、消滅時効を認めました。

 このように上記東京高裁は婚姻関係の破綻を認めましたが、破綻したと認定した時期は親子関係不存在確認訴訟の判決が確定したときであり、単純に別居したという程度では婚姻関係の破綻が認められるのは難しそうです。

(弁護士 井上元)