元妻の財産分与審判確定までの居住を適法とした東京地裁平成27年12月25日判決

 妻の方からの離婚相談において、「夫から自宅は夫名義だから退去するように言われているが、退去する必要があるのですか?」との相談を受けることがあります。

 結論は、自宅が夫婦共有財産の場合、財産分与が確定するまでの間は原則として退去する必要はありません。

 この点につき東京地裁平成27年12月25日判決が判断していますのでご紹介します。

東京地裁平成27年12月25日判決

事案の概要

① X男とY女は、平成12年11月、婚姻した。

② 平成15年、X男名義でマンションを購入した。

③ X男は、平成22年11月、外国に単身赴任してY女との同居を解消した。Y女は、その後、平成27年4月に本件マンションを明け渡すまでの間、本件建物に居住していた。

④ X男とY女は、平成26年3月、裁判上の離婚をした。

⑤ Y女は、平成27年4月、X男に対し、本件マンションを明け渡した。

⑥ ○○家庭裁判所は、X男Y女間に係る財産分与申立事件において、平成27年8月、財産分与の審判をし、同審判は、同年9月、確定した。

X男のY女に対する賃料相当損害金請求

 X男はY女に対し、Y女が、離婚成立以降もX男所有名義のマンションを権限なく占有し続けていることが不法行為ないし不当利得に当たると主張して、不法行為ないし不当利得に基づき、離婚成立日である平成26年3月からマンション明渡し日である平成27年4月までの賃料相当損害金の賠償ないし賃料相当額の返還を求めた。

判決内容

 判決は次のように述べてX男の請求を棄却しました。

「夫婦共有財産に係る不動産については、それが夫婦の一方の単独名義であったとしても、財産分与の合意が成立するまで、あるいは、財産分与審判が確定するまでは、原則として占有権限があるというべきであるところ、本件全証拠によっても、被告に占有権限が認められないという例外的場合に当たるとみるべき事情は見当たらない。」

「また、夫婦共有財産の清算に関しては、民法768条が離婚時の財産分与として定めており、財産分与の具体的な方法については、家庭裁判所が、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して定めるものとされている(民法768条3項)から、離婚によって生じることのあるべき財産分与請求権は、当事者の協議又は審判等によって具体的内容が形成されるまでは、その範囲及び内容が不確定なものと解される(最高裁判所第二小法廷昭和55年7月11日判決・民集34巻4号628頁)。

 そうすると、夫婦の一方は、夫婦共有財産について、当事者間で協議がされるなど、具体的な権利内容が形成されない限り、相手方に主張することのできる具体的な権利を有しているものではないと解すべきであるから、被告が、原告との裁判上の離婚成立以降に本件建物の占有を継続し、仮にこれが権限に基づくものではないとしても、上記被告の行為によって、原告の具体的な権利が侵害されたということも、原告に具体的な損失が生じたということもできないというべきである。」

「原告は、仮に本件建物について被告の潜在的持分が認められるとしても、それは2分の1を超えることはないから、原告は、当事者の協議又は審判等によらずとも、本件建物の2分の1の持分を確定的に有している旨を主張する。しかしながら、当事者の協議又は審判等の内容次第では、本件建物に係る被告の持分につき2分の1を超える持分を保有させることもあり得るから、協議又は審判等がなされていない時点において、原告が本件建物の2分の1の持分を確定的に有しているとはいえない。本件審判が、最終的に本件建物の売却代金を原告に取得させた上で、不動産以外の金融資産等をも考慮した上で、生じた不均衡を金銭で調整したことは、家庭裁判所が、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して定めた結果に過ぎず、本件審判の結果をもって、原告につき、当事者の協議又は審判等によって具体的内容が形成されるまでに被告が受けたとする本件建物の使用利益に相当する損害賠償請求権や不当利得返還請求権があるとすることはできない。これに反する原告の主張は採用できない。」

コメント

 上記判決が判示するように、夫婦間における財産の問題については、先ず、財産分与において判断されるべきです。

 共有物分割請求についても、同様の判断がなされることが多いようです。

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(弁護士 井上元)