離婚慰謝料の消滅時効起算点と財産分与と慰謝料の関係につき判断した最判昭和46年7月23日判決

 最高裁昭和46年7月23日判決(民集25巻5号805頁)が離婚慰謝料の消滅時効起算点と財産分与と慰謝料の関係につき判断していますので紹介しましょう。

1 離婚慰謝料の消滅時効起算点

 離婚の際に請求する慰謝料としては、離婚原因となった個別の有責行為(暴力や不貞など)に対する慰謝料と離婚そのものに対する慰謝料があります。通常は、離婚に際して、両者を明確に区別しないで請求することが多く、3年の消滅時効の期間がいつから進行するのか問題となることは余りありません。

 上記最高裁判決の事案では、個別の不法行為日から3年経過後、離婚から3年経過前に訴訟提起されたため、消滅時効がいつから進行するのか問題となりました。

 この点につき、上記最高裁判決は、本件で請求されているのは離婚慰謝料であり、離婚から3年以内に訴訟提起されているので消滅時効にかかっていなと判断しました。

「本件慰藉料請求は、上告人と被上告人との間の婚姻関係の破綻を生ずる原因となった上告人の虐待等、被上告人の身体、自由、名誉等を侵害する個別の違法行為を理由とするものではなく、被上告人において、上告人の有責行為により離婚をやむなくされ精神的苦痛を被ったことを理由としてその損害の賠償を求めるものと解されるところ、このような損害は、離婚が成立してはじめて評価されるものであるから、個別の違法行為がありまたは婚姻関係が客観的に破綻したとしても、離婚の成否がいまだ確定しない間であるのに右の損害を知りえたものとすることは相当でなく、相手方が有責と判断されて離婚を命ずる判決が確定するなど、離婚が成立したときにはじめて、離婚に至らしめた相手方の行為が不法行為であることを知り、かつ、損害の発生を確実に知ったこととなるものと解するのが相当である。・・・本件訴は上告人と被上告人との間の離婚の判決が確定した後3年内に提起されたことが明らかであつて、訴提起当時本件慰藉料請求権につき消滅時効は完成していない」

2 財産分与と離婚慰謝料の関係

 また、上記最高裁判決は、財産分与と離婚慰謝料との関係について次のように判示しています。

「離婚における財産分与の制度は、夫婦が婚姻中に有していた実質上共同の財産を清算分配し、かつ、離婚後における一方の当事者の生計の維持をはかることを目的とするものであって、分与を請求するにあたりその相手方たる当事者が離婚につき有責の者であることを必要とはしないから、財産分与の請求権は、相手方の有責な行為によつて離婚をやむなくされ精神的苦痛を被ったことに対する慰藉料の請求権とは、その性質を必ずしも同じくするものではない。したがって、すでに財産分与がなされたからといって、その後不法行為を理由として別途慰藉料の請求をすることは妨げられないというべきである。もっとも、裁判所が財産分与を命ずるかどうかならびに分与の額および方法を定めるについては、当事者双方におけるいっさいの事情を考慮すべきものであるから、分与の請求の相手方が離婚についての有責の配偶者であつて、その有責行為により離婚に至らしめたことにつき請求者の被った精神的損害を賠償すべき義務を負うと認められるときには、右損害賠償のための給付をも含めて財産分与の額および方法を定めることもできると解すべきである。そして、財産分与として、右のように損害賠償の要素をも含めて給付がなされた場合には、さらに請求者が相手方の不法行為を理由に離婚そのものによる慰藉料の支払を請求したときに、その額を定めるにあたっては、右の趣旨において財産分与がなされている事情をも斟酌しなければならないのであり、このような財産分与によって請求者の精神的苦痛がすべて慰藉されたものと認められるときには、もはや重ねて慰藉料の請求を認容することはできないものと解すべきである。しかし、財産分与がなされても、それが損害賠償の要素を含めた趣旨とは解せられないか、そうでないとしても、その額および方法において、請求者の精神的苦痛を慰藉するには足りないと認められるものであるときには、すでに財産分与を得たという一事によつて慰藉料請求権がすべて消滅するものではなく、別個に不法行為を理由として離婚による慰藉料を請求することを妨げられないものと解するのが相当である。」

 そして、上記事案では、妻は財産分与により整理タンス一棹、水屋一個という僅かな財産しか分与されておらず、慰謝料は含まれていないとして慰謝料請求を認めました。

 離婚の際に、財産分与、慰謝料、養育費、年金分割など離婚に附帯して決められるべき事項について漏れなく取り決めておけばこのような問題は生じませんので注意しましょう。

(弁護士 井上元)