離婚訴訟における財産分与の対象財産と特定

 離婚調停が不成立で終了した場合、離婚を望む側は離婚訴訟を提起することになります。そして、離婚訴訟においては、離婚とともに、本来は審判事項である財産分与についても附帯処分として求めることができます(人事訴訟法32条)。これは、併合審理が許されないとすると、離婚の判決確定後にあらためて家庭裁判所に対し財産の分与の申立をすることとなり、当事者にとっては不便であるし、手続的にみても不経済であるからです。

 財産分与としては、対象となる夫婦共有財産を金銭評価し、金銭で支払うよう命じることが一般的です。しかし、金銭に限られず、例えば、不動産を分与することも認められています。

 この点、最高裁昭和41年7月15日判決(民集20巻6号1197頁)は、妻に居住する建物と敷地を分与した原審判決を適法としています。

 また、財産分与についての民法768条3項では「分与の額」及び「分与方法」を定めると規定されています。上記最高裁判決の原審は、土地・建物を分与するとしただけで、その額を定めなかったため、夫がこれを違法だと主張しましたが、最高裁は「民法771条において準用する同法768条3項によつて裁判所が「分与の額」を定めるにあたっては、必ずしも金銭をもってその額を定めることを要するものではなく、金銭以外の財産をもってその額を定めることができ、この場合には分与すべき財産を特定すれば足り、また、その評価額まで判示する必要はないと解すべきである。」と判示して、夫の主張を退けました。

 更に、夫は、財産分与の申立は、分与を求める額および方法を特定してすることを要するのに、妻は単に抽象的に財産分与の申立をし、第一、二審とも、分与を求める額および方法について釈明をしないで財産の分与の判決をしたのは違法だと主張しました。これに対し、最高裁は「(財産分与の)申立をするには、訴訟事件における請求の趣旨のように、分与を求める額および方法を特定して申立をすることを要するものではなく、単に抽象的に財産の分与の申立をすれば足りるものと解するのを相当とする。」と判示して夫の主張を退けました。しかし、一般には、「金○○万円を支払え」とか「別紙物件目録記載の不動産について財産分与を原因とする所有権移転登記手続きをせよ」などと具体的な請求が記載されています。

 当事務所でも、判明している夫婦双方の財産を評価し、妻が取得すべき財産額を算定したうえで、夫に対して具体的な財産分与を求めるようにしています。

(弁護士 井上元)