婚姻費用の算定の際に、夫の借金は減額事由として考慮されるか?

婚姻費用の算定の際に、別居中の夫の借金は減額事由として考慮されるのでしょうか。

この問題について判断した東京家裁平成27年6月26日審判の概要をご紹介します。

1 事案の概要

 X(妻)とY(夫)は、平成4年に婚姻し、平成6年に長女、平成9年に二女をもうけたが、平成22年7月頃、Yが仕事を探すため東京の実家に戻って以来、別居をしている。長女と二女は、大学生である。

 Yの母は、Yを連帯保証人として、平成22年に長女の留学費用のため350万円を借り入れた。Yは、平成24年、長女の学費のため80万円を借り入れ、平成25年、二女の留学費用のため114万円を借り入れ、平成26年、Yの母から、長女の学費のため44万7000円を借り入れた。その他にも、Yは、生活費が不足した場合に、その都度、Yの母から借入をしている。

 一方、Xは、長女の奨学金のため238万円、二女の奨学金のため235万円を借り入れたほか、オートローンとして130万円を借り入れた。

 Xの平成26年分の収入は、404万225円であり、Yの平成26年分の収入は、300万円である。

 Yは、平成26年6月以降、Xに対し、婚姻費用を支払っていない。Xは、同年6月26日、東京家庭裁判所において婚姻費用分担を求める調停を申し立てたが、平成27年5月14日、不成立となり、審判に移行した。

 Yは、Yの母(実母)に対する借金の返済等があるうえ、長女と二女の学費や留学費等のために借り入れた債務があるとして、婚姻費用分担額の減額を主張した。

2 判断の概要

 権利者の収入を404万円、義務者の収入を300万円として、算定表(婚姻費用・子二人表(第一子及び第二子15歳~19歳))に基づき、婚姻費用を算定すると、相手方が負担すべき婚姻費用分担額は、月額2万円から4万円となる。本件審判において形成すべき婚姻費用分担の始期については、Xが本件調停を申し立てた平成26年6月とするのが相当であるところ、二女が私立高校に通学していたこと、大学受験の受験料及び入学金等をXが負担していることなどを考慮し、月額3万円を加算するのが相当である。これらに加え、YがYの実家で生活していること、双方に借入金があること、その他本件に顕れた一切の事情を考慮すると、Yが負担すべき婚姻費用分担額は月額7万円とするのが相当である。

 これに対し、Yは、Yの母に対する借金の返済等がある旨主張するが、これらが婚姻費用分担義務に優先するとはいえず、婚姻費用分担額を左右するものとはならない。また、Yは、長女と二女の学費や留学費等のために借り入れた債務があることは認められるものの、本件では、Xも学費等のための借入金を有していることから、これらのYの債務の返済を理由として、婚姻費用分担額を減額することは相当ではないというべきである。

3 コメント

 婚姻費用の算定に当たっては、夫婦双方の負債の有無及び額は、基本的に考慮されず、算定表で求められた幅の範囲で裁判所の裁量で考慮されるにとどまります。一般的に、負債は婚姻費用の支払に優先しないからです。

 ただし、義務者が借り入れた金員が、権利者の生活費に充てられている場合には、実質的に義務者は負債を返済することにより、婚姻費用の分担義務を果たしていると評価できることから、この負債返済に加えて婚姻費用の分担義務を負わせるのは、義務者に酷と思われ、調整を図ることが相当な事案もあります(『判例タイムズNo.1208(判例タイムズ社)』28頁参照)。つまり、婚姻費用分担にあたり、裁判所は、義務者の債務を必ずしも考慮しないというわけではないことに注意が必要です。

 本件でも、裁判所は、YだけでなくXも学費等のための借入金を有していること等を考慮したうえで、減額は相当ではないと判断しており、義務者の債務が考慮の対象となる余地を残しています。

 別居中、自分や子の生活費等を支出している場合は、証拠となる領収証、通帳や家計簿等を残しておいた方が良いでしょう。