夫が自営業者でもあり給与所得者でもある場合、婚姻費用や養育費はどのように算定されるか?

 夫が自営業者(事業所得者)でもあり給与所得者でもある場合、婚姻費用はどのように算定されるのでしょうか。

1 算定の一般的な手順

 平成15年4月、東京及び大阪の裁判所の裁判官を中心として組織された東京・大阪養育費等研究会の研究報告において、婚姻費用や養育費の算定方式につき、従前実務で用いられてきた方式を踏まえて、より簡易な算定方式とこれによる簡易な算定表が公表されました。

 この算定表の横軸には権利者の総収入、縦軸には義務者の総収入が記載されています。①表の右上に記載されている子の人数と年齢に従って使用する算定表を選択し、②当該表の権利者及び義務者の収入欄を給与所得者か自営業者かの区別により選び出し、③義務者の収入と権利者の収入の該当欄を交差させた額が標準的な婚姻費用・養育費となります。(『離婚・離縁事件 実務マニュアル(第3版)』(東京弁護士会法友全期会 家族法研究会)70頁、73頁参照)。

 算定表に記載されている収入は、「総収入」を意味します。

 給与所得者の総収入は、源泉徴収票の「支払金額」にあたります。なお、総収入を給与明細書で認定する場合には、歩合給が多い場合などにはその変動が大きく、賞与・一時金が含まれていないことに注意が必要です。

 自営業者の総収入は、確定申告書の「課税される所得金額」にあたります。事業の種類によって収入を得るのに必要な経費が異なるため、給与所得者の総収入にあたる収入金額(売上金額)が、自営業者の総収入になるわけではないことに注意が必要です。

2 給与所得者と自営業者で収入欄が区別されている理由

 給与所得者か自営業者かによって算定表の収入欄が区別されているのは、給与所得者の基礎収入の割合(総収入の34~42%)と自営業者の基礎収入の割合(総収入の47~52%)が異なっているためです。「基礎収入」とは、養育費や婚姻費用を捻出する基礎となる収入をいい、総収入から公租公課(所得税、住民税、社会保険料)、職業費(被服費、交通・通信費、交際費等)、及び特別経費(住居費や医療費等)を控除した金額です。自営業者の総収入は、給与所得者の職業費に該当する費用及び社会保険料が既に控除されていることから、上記のように両者の基礎収入の割合が異なるのです(『判例タイムズNo.1111』(判例タイムズ社)286頁~291頁参照)。

3 義務者が給与所得と事業所得の両方の収入を得ている場合の算定

 では、義務者が給与所得と事業所得の両方の収入を得ている場合は、どのように算定表を利用すればよいのでしょうか。

 この場合、給与所得額と事業所得額の一方を他方に換算したうえで、合算した額について算定表を利用する方法があります。

 例えば、義務者の収入が給与所得1000万円及び事業所得500万円である場合、算定表の収入欄を見ると、事業所得500万円は概ね給与所得700万円に換算されるので、これを給与所得1000万円と合算し、1700万円の給与所得者として算定表を利用します(『判例タイムズNo.1209』(判例タイムズ社)6頁参照)。

 養育費・婚姻費用算定表は、裁判所サイト>養育費・婚姻費用算定表に掲載されています。興味のある方はそちらもご覧ください。