離婚した場合、妻の氏や戸籍はどうなるか?

 夫婦が離婚した場合、婚姻によって氏を改めた妻の氏や戸籍はどうなるのでしょうか。

1 離婚による復氏と戸籍

復氏と戸籍

 婚姻によって氏を改めた妻は、離婚によって、何らの手続を要せずに、法律上当然に婚姻直前の氏に復し(民法767条1項、771条・767条1項)、夫婦の戸籍から除籍され、原則として、婚姻前の戸籍(例えば、親の戸籍)に入籍することとなります(戸籍法19条1項本文、23条前段)。その結果、いわゆる「旧姓」に戻ります(復氏)。

 ただし、復氏した妻が、新戸籍編製の申出をしたときは、妻を戸籍筆頭者とする新戸籍が編製されます(戸籍法19条1項ただし書)。

新戸籍編製の手続

 復氏した妻が新戸籍を編製すると決めた場合、その手続はどうするのでしょうか。

 調停又は裁判による離婚の場合、原則として、申立人又は訴えを提起した者が、離婚等の届出人となります(戸籍法77条1項・63条)。以下、妻が申立人又は訴えを提起した者であるか否かで、場合分けしてご説明します。

≪妻が申立人又は訴えを提起した者である場合≫

 この場合、原則として、妻が離婚等の届出人となります。

 妻が、離婚届の「離婚前の氏に戻る者の本籍」のチェック欄の「新しい戸籍をつくる」にチェックすれば、これに基づいて新戸籍が編製されます(戸籍法77条1項・63条)。

≪妻が申立人又は訴えを提起した者でない場合≫

 この場合、原則として、妻ではなく夫が離婚等の届出人となります。

 妻が、当該届書の「その他」の欄に新戸籍を編製する旨記載し、署名捺印したうえで夫による届出があったとき、又はその旨の申出書を添付したうえで夫による届出があったときには、これに基づいて新戸籍が編製されます(昭和53年7月22日民二4184号通達参照)。

 また、離婚の調停調書の条項中に、妻につき、離婚により新戸籍を編製する旨及び新本籍の場所が記載されていれば、夫が離婚届を提出する際、妻の申出がなくても、新戸籍が編製されます(昭和55年1月18日民二680号通達)。この場合の調停条項としては、「相手方は、離婚により本籍を○○として新戸籍を編製する。」との文言が必要であるとされています。

 なお、調停離婚をする際、調停条項中に「申立人と相手方は、相手方の申出により本日調停離婚する。」と記載すれば、夫はもとより、妻からも届け出ることができます(昭和41年5月19日第81回東京戸籍事務連絡協議会第二問結論、昭和50年2月12日第124回東京戸籍事務連絡協議会第三問結論)。

2 婚氏続称と戸籍

婚姻前の氏から婚氏への変更

 前述のように婚姻によって氏を改めた妻は、離婚によって、何らの手続を要せずに、法律上当然に婚姻直前の氏に復します(復氏)。

もっとも、離婚の日から3か月以内に、「離婚の際に称していた氏を称する届出」(いわゆる婚氏続称の届出/戸籍法77条の2)をした場合には、離婚の際に称していた氏を使用することができます(民法767条2項・771条)。

 本来、氏を変更するには、家庭裁判所の許可が必要となりますが(戸籍法107条1項)、婚氏続称の場合はその特則として、家庭裁判所の許可を要せずに、婚姻前の氏から婚氏への変更が認められるのです。

婚氏続称の手続

 離婚以後、復氏した妻が婚氏を称すると決めた場合、その手続はどうするのでしょうか。

 妻が、離婚の日から3か月以内に、妻の本籍地又は所在地の市区町村役場に、婚氏続称の届出をすれば、婚氏続称の効力が生じます(戸籍法77条の2)。届出は、離婚の届出と同時にすることができますし、あるいは復氏して一旦婚姻前の戸籍に復籍した場合でも、また、復氏したが復籍せずに新戸籍を編製した場合でも行うことができます。この届出について、離婚した夫と協議したりその承諾を得たりする必要はありません。

婚氏続称に伴う戸籍の手続

 では、この場合の戸籍の手続についてはどうするのでしょうか。以下、婚氏続称の届出の時期で、場合分けしてご説明します。

≪離婚と同時に婚氏続称の届出をした場合≫

 妻が離婚と同時に婚氏続称の届出をした場合には、ただちに離婚の際に称していた氏で新戸籍が編製されます(昭和62年10月1日民二5000号民事局長通達第4の1)。

≪離婚と同時に婚氏続称の届出をしなかったが、後に婚氏続称の届出をした場合≫

 妻が離婚と同時に婚氏続称の届出をしなかった場合には、前述したように、原則として、婚姻前の戸籍(例えば、親の戸籍)に復籍します(戸籍法19条1項本文)。

 妻が当該復籍後の戸籍の筆頭者でないとき(例えば、戸籍筆頭者が父親である場合)、又は、妻が復籍後の筆頭者であってもその戸籍に既に同籍者があるとき(例えば、戸籍筆頭者が妻で、同籍者が妻の兄弟姉妹である場合)には、妻と同籍者との間で氏が異なることとなるため、妻を戸籍筆頭者とする新戸籍が編製されます(戸籍法19条3項)。

 妻が、復籍後の戸籍の筆頭者であり、かつ、その戸籍に同籍者がない場合には、新戸籍は編製されず、戸籍の筆頭者氏名欄の氏が婚氏に更正されます(東京弁護士会法友全期会家族法研究会『離婚・離縁事件実務マニュアル(第3版)』217頁~223頁(ぎょうせい)参照、二宮周平、榊原富士子『離婚判例ガイド(第3版)』179、180頁(有斐閣)参照)。