養育費や婚姻費用の算定の際、子の私立学校の学費は加算事由となるか?

1 問題の所在

 婚姻費用や養育費は、原則として、標準算定方式・算定表に従って、算定されます。

 もっとも、算定方式・算定表によることが不公平となるような特別な事情がある場合には、当該事情を考慮し、算定方式・算定表により求められた範囲に加減して、当該範囲と異なる金額を算定します。

 では、子が私立学校に通学中又は進学予定の場合、特別な事情がある場合にあたるとして、私立学校の授業料等の費用が算定方式・算定表により求められた金額に加算されるのでしょうか。

2 特別な事情がある場合にあたるか

 この問題について判断した大阪高裁平成26年8月27日決定の概要をご紹介します。

事案の概要

 夫と妻は、平成6年に婚姻し、平成10年に長男、平成14年に長女をもうけたが、平成21年から別居をしている。

 長男は、平成23年に私立○○中学部に入学し、平成26年に同高等部に進学した。長女は、市立小学校の6年生である。

 妻は、薬剤師の資格を有しているが、パニック障害の診断により通院治療を受け、服薬しながら勤務しており、平成25年分の給与所得の源泉徴収票によると、年収は102万8369円である。夫は、会社員であり、平成25年分の給与所得の源泉徴収票によると、 年収は1311万1382円である。

 長男の高等部の学費は、年間76万5000円であり、この外に、平成26年の入学時には、妻が入学金15万円を納付した。また、学費以外に、旅行等積立金等の所費を要し、平成26年度についてはその合計額は13万5500円である。

 夫は、婚姻費用の支払として、妻が管理する夫名義の口座に対し、平成25年×月から×月までは毎月34万5000円、同年×月以降は毎月25万円を入金している。

 妻は、平成25年、神戸家庭裁判所において婚姻費用分担を求める調停を申し立てたが、平成26年に不成立となり、審判に移行した。夫と妻は、平成26年に、それぞれ離婚等を求める訴えを神戸家庭裁判所に提起した。

 原審判は、婚姻費用の算出にあたり、長男の私立学校の学費が月額6万8000円程度必要であることを考慮した。

 当該原審判に対し、夫は、①長男の私立中学及び私立高校への進学を了承したことはなく、いずれも別居期間中、妻が夫と相談せずに決めたことであるうえ、②両親の離婚は、中高一貫校においてそのまま高等部に進学しない特段の問題にあたる、と主張し、抗告した。

決定の概要

①の主張に対して

  夫は、同居中に私立中学受験を前提にして長男の家庭学習を指導していたと認められるほか、別居後も、○○中学部に在籍していることを前提に、婚姻費用を支払ってきたことが認められる。また、○○は、中高一貫教育の学校であるから、中学に在籍している生徒は、特段の問題がなければ、そのまま高等部に進学する例が多いと考えられる。

したがって、中学及び高校を通じて○○の学費を考慮するのが相当である。

②の主張について

 当事者双方の別居をもって、直ちにこの特段の問題にあたるということはできない。

コメント

 標準算定方式・標準算定表は、子の公立学校の学校教育費を考慮するのみで、私立学校の学費その他の教育費は考慮していません。

 そこで、私立学校への進学についての義務者の承諾の有無、夫婦の学歴、職業、資産、収入、生活状況、居住地域の進学状況等の事情を考慮し、義務者にこれを負担させることが相当と認められる場合には、婚姻費用や養育費の算定に際し、私立学校の学費等を考慮する必要があります。

 この場合には、特別な事情がある場合にあたるとして、私立学校の授業料等の費用が算定方式・算定表により求められた金額に加算されます(二宮周平、榊原富士子『離婚判例ガイド(第3版)』270、271頁(有斐閣)参照)。

 本件決定では、裁判所は、私立学校への進学についての夫の承諾が認められるとまでは述べていませんが、同居中の夫の教育態度、別居中に夫が長男の私立中学の学費を支払っていたこと、○○が中高一貫教育の学校であること等の事情を考慮したうえで、夫に負担させることが相当として、特別な事情がある場合にあたる、と判断したと考えられます。

 本件の事案のように、私立学校への進学についての夫の承諾の有無が争われるケースは少なくありません。夫の承諾があれば、書面にその旨を記載させるなど、証拠として残した方が良いかもしれません。

3 子の習い事の費用は加算されるか

 学習塾等の習い事の費用は、通常の学校教育とは別にあくまで任意に行う私的な学習の費用であり、義務者が承諾しない限り、子を監護している親がその責任において行うのが基本であるとされます。

 もっとも、子が受験期にあり、学習の必要性が高い場合等には、当事者の経済状況等を考慮の上、社会通念上相当と認められる範囲で義務者に負担させる余地はあります(二宮、榊原・前掲270、271頁参照)。

4 加算の方法

 義務者への加算が認められる場合の処理方法としては、私立学校の学費その他の教育費から算定方式・算定表において考慮されている公立学校の教育費(公立中学校では13万4217円、公立高等学校では33万3844円)を控除したものを、義務者と権利者の基礎収入に応じて按分して計算する方法があります(二宮、榊原・前掲270、271頁参照、三代川俊一郎ほか『簡易迅速な養育費等の算定を目指して』判例タイムズ1111号290頁注15参照)。