家事事件(離婚や婚姻費用・養育費請求)における電話会議

 民事訴訟において従来から行われていた電話会議が、家事事件手続法(平成23年成立、平成25年施行)により、家事事件においても利用することができるようになりました。

 調停は相手方の住所地を管轄する家庭裁判所又は当事者が合意で定める家庭裁判所の管轄に属します(家事事件手続法245条)。したがって、大阪に居住している妻が東京に居住している夫に対し、離婚や婚姻費用・養育費支払いを求めて家事調停の申立てを行う場合、管轄の合意がなければ、東京家庭裁判所の管轄になるわけです。

 しかし、当事者が遠方に住んでいる場合やその他相当な事情があるとき(例えば、身体上の障害、病気療養中により出頭が困難な場合)、家庭裁判所は電話会議により調停を行うことができるとされています(同法54条)。

 実際の手続としては、①電話口にいるのが当事者本人であると確認すること、②電話先に第三者が在席していない等、家事事件の手続としての非公開性が担保されていることが重要となりますので、上記の例でいうと妻が代理人弁護士を選任しているか否かで異なる手続となるようです。

 具体的には、申立人が弁護士を代理人に選任している場合、その弁護士の事務所の固定電話を利用して電話会議が行われることになります。

 申立人が弁護士を選任していない場合、上記①、②を担保する必要がありますので、申立人に最寄の裁判所(基本的には家庭裁判所)に来てもらい、同裁判所庁舎の調停室等を使用して電話会議システムを利用することになります。

注意点

① 全ての家庭裁判所で電話会議を実施されているとは限りませんので、事前に、当該家庭裁判所に問い合わせて確認してください。

② 電話会議を実施するか否かは当該裁判所の裁量に委ねられていますので、遠方だというだけで電話会議を利用できるとは限りません。

③ 離婚調停などでは対面での話し合いが重要なことが多いと思われますので、事案によっては電話会議の利用は適切でないこともあります。

④ 離婚または離縁についての調停事件においては電話会議では調停を成立させることはできませんので(同法268条3項)、離婚調停では、成立の際には出頭しなければなりません。

参照条文

家事事件手続法

第54条(音声の送受信による通話の方法による手続)

1項 家庭裁判所は、当事者が遠隔の地に居住しているときその他相当と認めるときは、当事者の意見を聴いて、最高裁判所規則で定めるところにより、家庭裁判所及び当事者双方が音声の送受信により同時に通話をすることができる方法によって、家事審判の手続の期日における手続(証拠調べを除く。)を行うことができる。

2項 家事審判の手続の期日に出頭しないで前項の手続に関与した者は、その期日に出頭したものとみなす。

第268条(調停の成立及び効力)

3項 離婚又は離縁についての調停事件においては、第258条第1項において準用する第54条第1項に規定する方法によっては、調停を成立させることができない。

家事事件手続規則

第42条(音声の送受信による通話の方法による手続・法第54条)

1項 家庭裁判所及び当事者双方が音声の送受信により同時に通話をすることができる方法によって家事審判の手続の期日における手続(証拠調べを除く。)を行うときは、家庭裁判所又は受命裁判官は、通話者及び通話先の場所の確認をしなければならない。

2項前項の手続を行ったときは、その旨及び通話先の電話番号を家事審判事件の記録上明らかにしなければならない。この場合においては、通話先の電話番号に加えてその場所を明らかにすることができる。

(弁護士 井上元)