離婚後の子の扶養控除

  離婚後、母親である元妻(X)が子の親権者として子を引き取り、他方、父親である元夫(Y)が養育費を支払っている場合、XのYいずれの所得税から扶養控除を受けることができるのでしょうか?

 また、XとYの両方が、扶養控除を受けるものとして申告した場合、どちらが優先するのでしょうか?

扶養控除とは?

 納税者に所得税法上の控除対象扶養親族となる人がいる場合には、一定の金額の所得控除が受けられます。これを扶養控除といいます。

扶養親族に該当する人の範囲

 扶養親族とは、その年の12月31日(納税者が年の中途で死亡し又は出国する場合は、その死亡又は出国の時)の現況で、次の四つの要件のすべてに当てはまる人です。

(1) 配偶者以外の親族(6親等内の血族及び3親等内の姻族をいいます。)又は都道府県知事から養育を委託された児童(いわゆる里子)や市町村長から養護を委託された老人であること。

(2) 納税者と生計を一にしていること。

(3) 年間の合計所得額が38万円以下であること。

(給与のみの場合は給与収入が103万円以下)

(4) 青色申告者の事業専従者としてその年を通じて一度も給与の支払を受けていないこと又は白色申告者の事業専従者でないこと

控除対象扶養親族に該当する人の範囲

 控除対象扶養親族とは、扶養親族のうち、その年12月31日現在の年齢が16歳以上の人をいいます。

 子ども手当制度(平成24年4月から児童手当に名称変更)や高校授業料無償制度の導入にともない、平成22年の税制改正により、平成23年分の所得税(住民税は24年分)から、16歳未満の年少扶養親族に対する扶養控除が廃止されました。

 また、特定扶養親族の範囲も変更になり、16歳から19歳未満の扶養親族は対象から外れ、19歳から23歳までとなりました。

扶養控除額の金額

① 一般の控除対象扶養親族(16歳以上) 控除額38万円

② 特定扶養親族(19歳から23歳)   控除額63万円

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所得税の扶養控除を受けるための手続

 給与所得者は、その年の最初に給与の支払を受ける日の前日(中途就職の場合には、就職後最初の給与の支払を受ける日の前日)までに、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を給与の支払者(会社等)に提出する必要があります。

 なお、当初提出した申告書の記載内容に異動があった場合には、その異動の日後、最初に給与の支払を受ける日の前日までに異動の内容等を記載した申告書を提出する必要があります。

 尚、年齢16歳未満の扶養親族に対する扶養控除は廃止されましたが、個人住民税の算定(非課税限度額の算定)等の際に使用するため、年齢16歳未満の扶養親族を申告する必要があります。

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養育費を支払っている父親が扶養控除を受けることができるのか?

 上記のとおり、扶養控除を受けるためには、子が納税者と生計を一にしていることが要件となります。離婚し、親権者でもなく、同居もしていない父親と子が生計を一にしているといえるのでしょうか?

この点、国税庁は、離婚に伴う養育費の支払が、①扶養義務の履行として、②「成人に達するまで」など一定の年齢に限って行われるものである場合には、その支払われている期間については、原則として「生計を一にしている」ものとして扶養控除の対象として差し支えないとしています。

 したがって、父親が養育費を支払っている場合、子を扶養控除の対象とすることが認められています。

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国税不服審判所平成23年4月18日裁決

 母親である元妻Xが子の親権者として子を引き取り、他方、父親である元夫Yが養育費を支払う内容で裁判離婚が成立したところ、XとYの双方が子の扶養控除を前提とする申告をしたため、争いとなった事案です。参考となりますのでご紹介します。

事案の概要

 給与所得者であるYが、離婚後、元妻Xと同居している長男について、扶養控除を適用して確定申告をしたのに対し、原処分庁が、平成18年分については、Yは長男と生計を一にしているとは認められないとして、また、平成19年分及び平成20年分については、Xが、Yに先立って長男を扶養親族とする扶養控除等申告書を勤務先に提出しており、いずれの年分も扶養控除の適用はないとして所得税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分を行ったことから、Yが、当該各処分の全部の取消しを求めた事案である。

関係法令の要旨

イ 所得税法(平成20年法律第85号による改正前のもの。以下同じ。)第2条《定義》第1項第34号は、扶養親族とは、居住者の親族等でその居住者と生計を一にするもののうち、合計所得金額が38万円以下である者をいう旨規定している。

ロ 所得税法第84条《扶養控除》第1項は、居住者が扶養親族を有する場合には、その居住者のその年分の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額(以下「総所得金額等」という。)からその扶養親族一人につき38万円を控除する旨規定し、同条第2項は、二以上の居住者の扶養親族に該当する者がある場合には、その者は、政令で定めるところにより、これらの居住者のうちいずれか一の居住者の扶養親族にのみ該当するものとみなす旨規定している。

ハ 所得税法第85条《扶養親族等の判定の時期等》第3項は、同法第84条の場合において、その者が居住者の扶養親族に該当するかどうかの判定は、その年12月31日の現況による旨規定している。

ニ 所得税法施行令(平成22年政令第50号による改正前のもの。以下「施行令」という。)第219条《二以上の居住者がある場合の扶養親族の所属》第1項は、所得税法第84条第2項の場合において、同項に規定する二以上の居住者の扶養親族に該当する者をいずれの居住者の扶養親族とするかは、これらの居住者の提出するその年分の施行令第218条《二以上の居住者がある場合の控除対象配偶者の所属》第1項に規定する申告書等(確定申告書又は給与所得者の扶養控除等申告書等をいい、以下「基準申告書等」という。)に記載されたところによる旨規定している。

 また、施行令第219条第2項は、同条第1項の場合において、二以上の居住者が同一人をそれぞれ自己の扶養親族として基準申告書等に記載したとき、その他同項の規定によりいずれの居住者の扶養親族とするかを定められないときは、次に定めるところによる旨規定している。

(イ) その年において既に一の居住者が基準申告書等の記載によりその扶養親族としている場合には、その親族はその居住者の扶養親族とする。(第1号)

(ロ) 第1号の規定によってもいずれの居住者の扶養親族とするかが定められない扶養親族は、居住者のうち総所得金額等の合計額又はその親族がいずれの居住者の扶養親族とするかを判定すべき時におけるその合計額の見積額が最も大きい居住者の扶養親族とする。(第2号)

裁決の内容

1 平成18年分

 Yは、扶養親族の判定時期である平成18年12月31日において長男と同居しておらず、また、本件養育費について1か月につき6万円を支払う義務が確定したが、Yが平成18年1月分ないし同年12月分の本件養育費を支払ったのは平成19年4月2日であり、平成18年中に本件養育費の送金は行われていないことから、長男は、Yと「生計を一にするもの」には該当せず、Yは、長男を扶養親族として扶養控除を適用することはできないとしました。

2 平成19年分及び平成20年分

 次のように判断して、Yの所得税の計算上、長男を扶養親族とする扶養控除の適用はないとしました。

イ 法令解釈

 扶養控除は、所得のうち扶養親族の最低限度の生活を維持するのに必要な部分は担税力を持たないと考えられることから、自己と生計を一にする扶養親族を有する納税者に対して扶養親族の人数に応じた所得控除を認めたものであると解される。

 そして、このような趣旨からすると、2以上の居住者の扶養親族に該当する者がある場合に、重複して扶養控除を認める理由はないことから、所得税法第84条第2項、施行令第219条により、いずれか一の居住者の扶養親族に該当するものとみなすこととされている。

 施行令第219条第1項は、2以上の居住者の扶養親族に該当する者があるときは、その所属は原則として居住者の自由な選択にゆだね、基準申告書等に一方の居住者の扶養親族に所属させる旨の記載があればそれによることとしており、同項によっていずれの居住者の扶養親族であるか定まらない場合には同条第2項第1号により、また、同号によっても定まらない場合には同項第2号により、いずれの居住者の扶養親族であるかを決することとしている。

ロ あてはめ

 これを本件についてみると、Yは、平成19年中及び平成20年中において本件養育費を送金しており、また、Xは、長男と同居してこれを養育していることから、長男は、Y及びXの双方と「生計を一にするもの」に該当するということができる。

 そして、Y及びXは、勤務先に対し、いずれも長男を扶養親族とする旨の平成19年分及び平成20年分の扶養控除等申告書を提出していることから、長男が、Y又はXのいずれの扶養親族であるかは、施行令第219条第2項第1号により決せられることになる。

 そうすると、平成19年分及び平成20年分とも、Xが、Yより先に、本件勤務先に対し、長男を扶養親族とする旨の扶養控除等申告書を提出しているから、長男はXの扶養親族に該当する。

 したがって、Yの平成19年分及び平成20年分の所得税の計算上、長男を扶養親族とする扶養控除の適用はない。

出典

コメント

 XとYの双方が、子を自己の扶養親族として申告書等に記載したとき、所得税法施行令219条2項1号の「その年において既に一の居住者が申告書等の記載によりその扶養親族としている場合には、当該親族は、当該居住者の扶養親族とする。」との規定により、先に申告書等に記載した者が優先されることになります。上記国税不服審判所平成23年4月18日裁決も同様の判断を行っています。

 XとYのいずれが先に申告書等に記載したか不明である場合、同条同項2号により所得が多い方が優先されることになります。

 法令の適用としてはこのとおりですが、XとYの間でXにて扶養控除する旨の合意ができるのなら、例えば、離婚調停における調停条項で、「当事者双方は、子の税法上の扶養控除につき、平成○○年分以降、Xにおいて申告することを確認する。」との条項を入れておくことが考えられます。

 この合意に反して、後日、Yが、Xより先に自己の扶養親族として申告書等に記載した場合、法令に従いますと、形式論理としてはYが優先することになりそうですが、双方の自由な選択に委ねる施行令第219条第1項の趣旨を重視するなら、Xを優先させてもよさそうです。ただし、先例は見当たりません。

適用法令

平成30年10月現在

所得税法

(定義)

第2条1項

34号

 扶養親族 居住者の親族(その居住者の配偶者を除く。)並びに児童福祉法(昭和22年法律第164号)第27条第1項第3号(都道府県の採るべき措置)の規定により同法第6条の4(定義)に規定する里親に委託された児童及び老人福祉法(昭和38年法律第133号)第11条第1項第3号(市町村の採るべき措置)の規定により同号に規定する養護受託者に委託された老人でその居住者と生計を一にするもの(第57条第1項に規定する青色事業専従者に該当するもので同項に規定する給与の支払を受けるもの及び同条第3項に規定する事業専従者に該当するものを除く。)のうち、合計所得金額が38万円以下である者をいう。

34の2号

 控除対象扶養親族 扶養親族のうち、年齢16歳以上の者をいう。

34の3号

 特定扶養親族 控除対象扶養親族のうち、年齢19歳以上23歳未満の者をいう。

(扶養控除)

第84条

1項

 居住者が控除対象扶養親族を有する場合には、その居住者のその年分の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額から、その控除対象扶養親族一人につき38万円(その者が特定扶養親族である場合には63万円とし、その者が老人扶養親族である場合には48万円とする。)を控除する。

2項

 前項の規定による控除は、扶養控除という。

(扶養親族等の判定の時期等)

第85条

3項

 第79条又は第81条から前条までの場合において、その者が居住者の老人控除対象配偶者若しくはその他の控除対象配偶者若しくはその他の同一生計配偶者若しくは第83条の2第1項(配偶者特別控除)に規定する生計を一にする配偶者又は特定扶養親族、老人扶養親族若しくはその他の控除対象扶養親族若しくはその他の扶養親族に該当するかどうかの判定は、その年12月31日の現況による。ただし、その判定に係る者がその当時既に死亡している場合は、当該死亡の時の現況による。

5項

 2以上の居住者の扶養親族に該当する者がある場合には、その者は、政令で定めるところにより、これらの居住者のうちいずれか一の居住者の扶養親族にのみ該当するものとみなす。

所得税法施行令

(二以上の居住者がある場合の扶養親族の所属)

第219条

1項

 法第85条第5項(扶養親族等の判定の時期等)の場合において、同項に規定する二以上の居住者の扶養親族に該当する者をいずれの居住者の扶養親族とするかは、これらの居住者の提出するその年分の前条第1項に規定する申告書等(法第195条の2第1項(給与所得者の配偶者控除等申告書)の規定による申告書を除く。以下この条において「申告書等」という。)に記載されたところによる。ただし、本文又は次項の規定により、その扶養親族がいずれか一の居住者の扶養親族に該当するものとされた後において、これらの居住者が提出する申告書等にこれと異なる記載をすることにより、他のいずれか一の居住者の扶養親族とすることを妨げない。

2項

 前項の場合において、二以上の居住者が同一人をそれぞれ自己の扶養親族として申告書等に記載したとき、その他同項の規定によりいずれの居住者の扶養親族とするかを定められないときは、次に定めるところによる。

一 その年において既に一の居住者が申告書等の記載によりその扶養親族としている場合には、当該親族は、当該居住者の扶養親族とする。

二 前号の規定によつてもいずれの居住者の扶養親族とするかが定められない扶養親族は、居住者のうち総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額の合計額又は当該親族がいずれの居住者の扶養親族とするかを判定すべき時における当該合計額の見積額が最も大きい居住者の扶養親族とする。

所得税基本通達

(生計を一にするの意義)

2-47

法に規定する「生計を一にする」とは、必ずしも同一の家屋に起居していることをいうものではないから、次のような場合には、それぞれ次による。

(1)勤務、修学、療養等の都合上他の親族と日常の起居を共にしていない親族がいる場合であっても、次に掲げる場合に該当するときは、これらの親族は生計を一にするものとする。

イ 当該他の親族と日常の起居を共にしていない親族が、勤務、修学等の余暇には当該他の親族のもとで起居を共にすることを常例としている場合

ロ これらの親族間において、常に生活費、学資金、療養費等の送金が行われている場合

(2)親族が同一の家屋に起居している場合には、明らかに互いに独立した生活を営んでいると認められる場合を除き、これらの親族は生計を一にするものとする。