不動産の財産分与

離婚する際、夫婦が形成した財産は財産分与として清算されます。

財産分与は、不動産、預貯金、動産、現金などの個々の財産を分割するのではなく、原則として金銭を給付することで行われます。具体的に、夫名義の不動産(2000万円相当)、夫名義の預金(500万円)、妻名義の預金(500万円)のケースで説明しましょう。夫婦の総財産は3000万円ですから、夫婦が各自取得する財産は原則として各1500万円となります。妻は預金(500万円)を持っていますから、差額の1000万円を夫に請求することになります。

めぼしい財産として自宅である夫名義の不動産(2000万円相当)しかない場合には、上記と同様に、妻は夫に対して2分の1である1000万円を請求するのが原則です。

しかし、どうしても自宅が欲しい場合には、財産分与として自宅の名義変更を求めることになりますが、財産分与としては1000万円しか取得できませんので、差額1000万円を夫に支払わなければなりません。また、妻が不動産の取得を希望しても、裁判所は、妻に1000万円を支払う資力があるか否か、過去の居住状況、妻が自宅を取得することの必要性などの事情を総合考慮して判断しますので、必ず取得できるとは限りません。

夫が、妻が不動産を取得することにつき同意している場合は認められるでしょうが、夫が争っている場合には、訴訟を提起する際に慎重に判断する必要があります。

妻が自宅での居住を続ける必要性が高い場合には、財産分与として、夫に対して妻に賃貸するよう命じる事例もあるようです(名古屋高等裁判所平成21年5月28日判例時報2069号50頁)。しかし、このように賃借権を設定すると当事者の人間関係が離婚後も残ることになり、将来、紛争が生じることもありますので、例外的な措置であると思われます。

妻が離婚後にどこに居住するかは重要なことですので、十二分に検討してください。

(弁護士 井上元)