離婚調停と調停委員~弁護士の役割

最近、離婚調停を行っている女性から、調停委員から「訴訟では離婚は難しいですから離婚条件では譲歩されたらいかがですか?」とか「訴訟では離婚はどうなるかわかりませんよ。ご主人と円満な話し合いをされた方がよいと思いますよ」などと言われたという相談をよく受けます。

でも、私が事情を聞く限りでは、離婚訴訟を提起すれば、十中八九、離婚が認められる事案なのです。

調停委員は、なぜ、このように間違ったことを言うのでしょうか?

まず、調停委員には、弁護士や法学部教授などの法律の専門家である人と法律には素人の一般の人がいます。弁護士の場合ですと、弁護士会が裁判所から依頼を受けて希望者を募り、裁判所に推薦、審査を受けて調停委員に選任されているようです。一般の調停委員の場合は、私の知る限りでは選任ルートは公開されていませんのではっきりとは分かりませんが、行政や学校のOBなどの諸団体の推薦により選任されているのではないかと思われます。

専門家の委員である場合には特に問題はないと思いますが(誰にでも間違いはありますので、絶対とは言いません。裁判官だって間違えます。)、一般の調停委員は法律については全くの素人なのです。調停委員に選任された後、家庭裁判所で多少の研修はあるのかもしれませんが、実務で通用するほどの法律的知識があるはずはありません。

ちなみに、専門家委員はおおむね遺産分割調停を担当することが多いようです。遺産分割事件は法律的にも難しい案件が多いため、専門家委員の担当となるよう配慮されているのでしょうか。その結果、離婚調停を担当する調停委員はほぼ一般の調停委員ということになります。

遺産分割調停においても一般の調停委員が担当することが多くありますが、私の経験では、遺産分割事件で、一般の調停委員が間違ったアドバイスを行っているという印象は余りありません。この調停委員の言っていることは間違っていると私が思うのは、ほとんどが離婚調停における一般の調停委員の場合なのです。

なぜ、とりわけ離婚調停において、一般の調停委員の言い分は間違っていると私が感じるのでしょうか?

私の推測ですが、遺産分割は法律的にも複雑、困難であり、自分にはよく分からないということを調停委員は自覚しているからではないでしょうか。こういう自覚があるから、少なくとも、法律問題についての断定的なアドバイスは慎まれるのでしょう。

これに対し、離婚問題については何となく分かっている、自分も結婚しており、人生の先輩として、離婚問題についてなら指導できる、と思っているから、法律的には間違っていることを平気で言うのではないでしょうか。だから、冒頭のような発言につながるのです。

離婚問題は法律問題です。離婚訴訟になれば、裁判官が法律にしたがって、離婚を認めるか否かを判決で決める事柄なのです。「訴訟では離婚は難しいですよ」と言うのなら、離婚法をきちんと勉強し、専門家並みの知識と経験を得てから言わなければなりません。ところが、調停委員は離婚訴訟のことなんか全く分からず、何となく間違った発言をしてしまっている。

調停委員は、調停は話し合いなんだから問題ないと言うかもしれません。しかし、「訴訟では離婚は難しい」というのは法的な意見なのです。ご本人は素人ですから、家庭裁判所の調停委員から「訴訟では離婚は難しい」と言われれば、そのまま信じてしまいます。そして、言われるがまま、自分の本意ではない調停を受け入れてしまうこともあるでしょう。

私は、なんでもかんでも訴訟を提起すべきだと言っているのではありません。「訴訟になればこのような結果が予想されますが、このようなリスクもあります。」という適切な説明することが重要だと言っているのです。そのうえで、調停を受け入れるのなら問題はありません。

繰り返しますが、離婚問題は法律問題です。法律問題を法律には素人の調停委員に委ねてしまうことには、どうしても危険がつきまといます。法律問題なのですから、法律専門家である弁護士に相談されるべきだと思うのです。

(弁護士 井上元)