婚姻費用分担調停後の事情変更による減額の可否

 婚姻費用分担調停により夫が妻に婚姻費用の支払を約束した後、夫の収入が減少するなどした場合、夫から婚姻費用分担額の減額を求めるためには、夫婦の間で合意するか、合意できなければ調停や審判で減額の是非が決められることになります。

 夫の収入が減少したとしても、従来と同程度の収入を得る稼働能力はあるにもかかわらず、あえて低い収入に甘んじている場合にはどのように考えられるのでしょうか?

 大阪高裁平成22年3月3日決定(家庭裁判月報62巻11号96頁)は、夫が調停で妻に対し月額6万円の支払を約束した後、収入が減ったことを理由として減額を求めた事案で判断しています。
 まず、「調停において合意した婚姻費用の分担額について、その変更を求めるには、それが当事者の自由な意思に基づいてされた合意であることからすると、合意当時予測できなかった重大な事情変更が生じた場合など、分担額の変更をやむを得ないものとする事情の変更が必要である。」とし、
 同事案では、「仮に夫の退職がやむを得なかったとしても、その年齢、資格、経験等からみて、同程度の収入を得る稼働能力はあるものと認めることができ、そうすると、夫が大学の研究生として勤務しているのは、自らの意思で低い収入に甘んじていることとなり、その収入を生活保持義務である婚姻費用分担額算定のための収入とすることはできない。」と判断して、夫の婚姻費用分担額の減額を求める申立を認めませんでした。

 一方、原審の和歌山家裁平成21年11月24日審判(家庭裁判月報62巻11号100頁)は、夫が支払うべき婚姻費用を月額1万円に減額しており、微妙な事案では判断が分かれるところでしょう。

(弁護士 井上元)