離婚の際、妻が夫から財産分与として不動産を譲り受けた場合、妻に贈与税はかかりません。それでは、離婚前に贈与を原因として妻が夫から不動産の所有権移転登記を受け、その後、離婚した場合、財産分与として扱われるのでしょうか?
国税不服審判所平成13年3月30日裁決は、要旨「請求人は、離婚を条件として前夫から取得することとなっていた土地について、離婚前に登記原因を贈与とする贈与税の申告をしたが、その後の裁判により離婚が確定したことをもって、当該土地は財産分与であるとして、国税通則法第23条第2項を適用して、更正の請求が認められる旨主張する。しかしながら、請求人が当該土地の所有権移転登記をしたのは、裁判離婚を提訴する前で、婚姻状態が継続していたこと、また、提訴の内容は離婚を求めるものであり、財産分与の額を決定したものではないことから、当該土地の取扱いは、財産分与とは認められず、相続税法第9条の規定により、贈与として取り扱うのが相当であるから、更正の請求は認められない。」との判断をしています。
上記裁決は、前提として「離婚による財産の分与によって取得した財産については、離婚によって生じた財産分与請求権に基づいて給付されるものであり、贈与によって取得するものではないと解されるところ、離婚に伴う財産分与請求権は、当事者間の協議によっても成立するが、財産分与は離婚の効果によって生ずるものであるから、離婚届出前に協議がなされた場合には財産分与は離婚を条件に効力が生じることとなる。」と述べたうえで、次のような事実を認定し、財産分与ではなく贈与だと判断しています。
- 夫は協議離婚に同意せず、調停でも離婚が成立せず、判決によって離婚が確定した。
- 夫は、当初から離婚する意思はなかった。
- 一方、妻は本件贈与土地については、贈与に当たることを認識していた。
- 妻は、夫との離婚を希望していたことはうかがえるものの平成8年6月以降、離婚を思いとどまっていたこと、平成11年12月までは、夫の年金を生活の糧としていたことからすると、本件贈与が行われたときは婚姻中であったことはもちろん、その後も、妻自身も婚姻生活を継続していくことに同意していた。
上記裁決では、夫から妻への譲渡が贈与なのか財産分与なのかについては事情を総合して判断されています。離婚の前に不動産の所有権移転登記をする場合には事前に専門家に相談されることをお勧めします。
(弁護士 井上元)