婚約期間中の不貞行為

 結婚した後、夫婦は貞操義務を負い、不倫をすると不法行為として慰謝料を支払う義務を負います。

 それでは、婚約期間中にも貞操義務を負うのでしょうか?

 この問題については、これまで議論されてきませんでしたが、佐賀地方裁判所平成25年2月14日判決(判例時報2182号119頁)は、婚約期間中も貞操(守操)義務を負うと判断しています。珍しい事例ですのでご紹介しましょう。

上記佐賀地裁判決は、

「原告と被告は、婚約が成立したのであるから、正当な理由のない限り、将来結婚するという合意を誠実に履行すべき義務を負っているから、それぞれ婚約相手と異なる人物と性的関係を持たないという守操義務を負っていたというべきところ、被告は婚約成立後、○子という名前の女性と性的関係を持ち、しかも、結納後も、当該女性に対し執拗に性的関係を持つことを執拗に求めていたのであるから、婚約相手である原告の被告に対する信頼を裏切ったことは明らかである。原告が、被告の不貞の事実を婚約中に知ったのであれば、被告との婚約を破棄し、結婚式を挙げることはせず、新婚生活を送るために準備もしなかったであろうこと、さらに、被告の不貞により多大な精神的苦痛を被るであろうことは当然に予測し得たというべきである。」

と述べ、原告(妻)は、婚約中の被告(夫)の不貞を理由にして、不法行為に基づき、相当因果関係にある損害の賠償を求めることができるとしました。

(弁護士 井上元)