営業権の財産分与

 離婚の際、例えば、夫が自営業者である場合、妻は夫の営業権を財産分与の対象として財産分与を求めることができるのでしょうか?

 この点について判断した裁判例は少ないのですが、東京高裁昭和54年9月25日判決(判例時報944号55頁)と松山地裁西条支部昭和50年6月30日判決(判例時報808号93頁)があります。

 東京高裁昭和54年9月25日判決(判例時報944号55頁)は、夫婦がいわゆる「富山の薬売り」と呼称される業務を営んでいた事案において、「配置薬懸場帳と題する帳簿九冊」を分与し、引渡しを命じました。

 松山地裁西条支部昭和50年6月30日判決(判例時報808号93頁)は、夫婦がプロパンガス販売業を営んでいた事案において、「プロパン本店及び支店の得意先は約3000戸ありこれを営業権として見積ると金1500万円(一戸当り金5000円とする)が相当である」と金銭で評価し、金員での分与を命じました。

 上記事案は、いずれも夫婦が共同で業務を営んでいた事案であり、東京高裁の事案では業務用財産自体の分与を命じ、松山地裁西条支部の事案では業務用財産自体の分与は困難であったため金銭評価して金員での分与を命じたものです。

 妻が専業主婦として夫を支えてきた事案でも、営業権を金銭評価して財産分与の対象とすべきと思います。

(弁護士 井上元)