財産分与として夫所有のマンションに妻の使用貸借権を設定した事例

 離婚に際し、妻が「子供が大きくなるまでは今の家に住みたい」と希望することがあります。夫名義のマンションを財産分与として妻に分与してもらうことができればよいのですが、これができない場合、妻の使用貸借権を設定する方法があります。

 この点、名古屋高裁平成18年5月31日決定(家庭裁判月報59巻2号134頁)が興味深い判断をしていますのでご紹介しましょう。

【事案の概要】

  マンションの時価は2090万円、住宅ローン残高は2383万円とオーバーローンであり、夫の持分は5/6、妻の持分は1/6でした。

 まず、妻の持分1/6につき、上記決定は、本件マンションは、妻と夫との共有であるところ、これをそのままにした場合には、将来、共有物分割の手続を残すことになることから、妻と夫のいずれかに帰属させるのが相当であるところ、上記マンションについての本件住宅ローンがいずれも夫名義であり、夫が支払続けていること、その財産価値が上記のとおりであること、その他、妻の持分割分(6分の1)等を考慮すると、妻の上記共有持分全部を夫に分与し、夫に本件マンションの所有権全部を帰属させるのが相当であるとしました。

 そのうえで、「本件においては、離婚後の扶養としての財産分与として、本件マンションを未成年者らと共に妻に住居としてある程度の期間使用させるのが相当である。加えて、前記のとおり、妻が夫からの離婚要求をやむなく受け入れたのは、その要求が極めて強く、また本件文書において一定の経済的給付を示されたからこそであると推認され、上記給付には、妻が未成年者らを養育する間は家賃なしで本件マンションに住めることが含まれており、この事情は扶養的財産分与を検討する上で看過できない」とし、二女が高校を長男が小学校を卒業するまでの間、扶養的財産分与として夫を貸主、妻を借主として使用貸借契約を設定するのが相当としました。

【決定主文】

 ご参考のため上記決定の主文を掲げます(ただし、分かりやすいように若干修正していますので、実際の訴訟提起に際してはこのまま記載しないよう注意してください)。

  1. 妻は、夫に対し、マンションの共有持分全部(持分6分の1)を財産分与する。
  2. 妻は、夫に対し、平成○年○月○日を経過したときは、マンション(持分6分の1)について、前項の財産分与を原因とする共有持分全部移転登記手続をせよ。
  3. 妻と夫との間において、マンションについて、次の内容の使用貸借権を設定する。
    1. 借主 妻
    2. 貸主 夫
    3. 期間 平成○年○月○日から平成○年○月○日まで
  4. 借主の負担する費用 水道料金を含む共益費、駐車場使用料及び光熱費

【本件決定のポイント】

  1. 夫婦の共有名義のマンション(夫5/6、妻1/6)を共有のままにすることは不適切であるとして妻の持分を夫に分与したこと。
  2. 子供が小学校を卒業するまでの間、扶養的財産分与として、夫を貸主、妻を借主とする使用貸借権を設定したこと。
  3. 妻の持分(1/6)の夫への所有権移転登記は使用貸借期間終了時において行うよう命じたこと。

 上記事案は使用貸借権(無償で使用する権利)を設定したものですが、賃貸借権(賃料を支払って使用する権利)を設定した裁判例もあります。このように使用権を設定した裁判例は少数ではありますが、どうしても自宅に居住する必要がある場合は検討してください。

(弁護士 井上元)