離婚財産分与と未払い婚姻費用

1 離婚財産分与と未払い婚姻費用についての最高裁判例

 過去、夫が妻に対して婚姻費用を支払っていなかった場合、離婚の際の財産分与において過去の未払い婚姻費用を考慮することができるのでしょうか?

 最高裁昭和53年11月14日(民集32巻8号1529頁)は「離婚訴訟において裁判所が財産分与の額及び方法を定めるについては当事者双方の一切の事情を考慮すべきものであることは民法771条、768条3項の規定上明らかであるところ、婚姻継続中における過去の婚姻費用の分担の態様は右事情のひとつにほかならないから、裁判所は、当事者の一方が過当に負担した婚姻費用の清算のための給付をも含めて財産分与の額及び方法を定めることができるものと解するのが、相当である。」と判示して、これを肯定しています。

 具体的には、妻の夫に対する財産分与の請求につき、不動産の清算等として600万円に過去の生活費・教育費の清算相当額400万円を加算して計1000万円を認めた原審判決を是認したものです。

2 下級審裁判例

 上記最高裁判決以前の下級審裁判例では、財産分与として、未払い婚姻費用分担額482万8000円を認めた東京家昭和48年8月1日審判(家庭裁判月報26巻4号62頁)と「婚姻費用分担は、本来は婚姻関係を継続することを前提としたものであるから、婚姻関係が破綻して離婚訴訟が係属している場合には、その金額の算定に当たっては考慮が必要である。」として未払い婚姻費用分担額1168万円を認めた東京地裁平成9年6月24日判決(判例タイムズ9624号224頁)があります。

3 夫婦関係が円満にしている間における過当に負担した婚姻費用

 一方、高松高裁平成9年3月27日判決(判例タイムズ956号248頁)は、夫婦の一方が婚姻費用を過当に負担していた場合であっても、夫婦関係が円満に推移している間のものであるときは、その清算を要する旨の夫婦間の明示又は黙示の合意等の特段の事情のない限り、その過分な費用負担はいわば贈与の趣旨でなされ、その清算を要しないものと認めるのが相当であるとしています。

(弁護士 井上元)