離婚慰謝料と財産分与についての最高裁昭和31年判決

 少々古い判決ですが、離婚慰謝料と財産分与の関係について最高裁昭和31年2月21日判決(民集10巻2号124頁)が判断していますので確認しておきましょう。

1 夫に妻への離婚慰謝料の支払いを命じた高裁判決に対し、夫が上告し、「離婚の場合に離婚をした者の一方は、相手方に対して財産分与の請求ができるから、離婚につき相手方に責任があるの故をもつて、直ちに慰藉料の請求をなし得るものではなく、その離婚原因となつた相手方の行為が、特に身体、自由、名誉等の法益に対する重大な侵害であり不法行為の成立する場合に、損害賠償の請求をなし得るに過ぎないものと解すべきである。」と主張しました。

これに対し、最高裁は、次のように述べて離婚慰謝料を認めました。

「離婚の場合に離婚した者の一方が相手方に対して有する財産分与請求権は、必ずしも相手方に離婚につき有責不法の行為のあったことを要件とするものではない。しかるに、離婚の場合における慰藉料請求権は、相手方の有責不法な行為によつて離婚するの止むなきに至ったことにつき、相手方に対して損害賠償を請求することを目的とするものであるから、財産分与請求権とはその本質を異にすると共に、必ずしも所論のように身体、自由、名誉を害せられた場合のみに慰藉料を請求し得るものと限局して解釈しなければならないものではない。されば、権利者は両請求権のいずれかを選択して行使することもできると解すべきである。たゞ両請求権は互に密接な関係にあり財産分与の額及び方法を定めるには一切の事情を考慮することを要するのであるから、その事情のなかには慰藉料支払義務の発生原因たる事情も当然に斟酌されるべきものであることは言うまでもない。ところで、これを本件について見ると、妻は本訴において慰藉料のみの支払を求めているのであって、すでに財産分与を得たわけではないことはもちろん、慰藉料と共に別に財産分与を求めているものでもない。それ故、所論の理由により慰藉料の請求を許されずとなすべきでないこと明らかであるから、所論は理由がない。」

2 次に、夫の「現行民法により財産分与請求権が認められた以上、特に重大な権利侵害があつた場合でなければ慰藉料請求は許されない」との主張についても、否定しました。

現在では、離婚慰謝料と財産分与は当然のように別々に認められていますが、このような争いもあったわけです。

(弁護士 井上元)