オーバーローンの共有建物についての共有物分割請求事件において全面的価格賠償を命じた事例

 夫婦の共有不動産がオーバーローンである場合、財産的価値はないものとして財産分与の対象からはずされるのが通例ですが、共有状態の不動産が残されることになります。この共有状態をどのようにして解消すればよいのでしょうか?

 夫婦間における離婚財産分与の事案ではありませんが、東京地裁平成18年6月15日判決(判例タイムズ1214号222頁)がこの問題について興味深い判断をしていますので紹介します。

【事案の概要】

  1. 夫と妻の弟とが資金を出し合って(基本的に、夫は現金、妻の弟はローンによる)建物を建築し、登記については2分の1ずつの共有とした。
  2. 夫婦の離婚に伴い夫は本件建物を出て、現在、本件建物には、妻、子ら、妻の弟、母が居住している。
  3. 本件建物の敷地は妻、妻の弟、母の共有である。
  4. 本件建物は明らかなオーバーローンの状況にあり、ローン債務は妻の弟のみが負っている。
  5. 夫は、妻の弟に対し、共有物分割請求訴訟を提起し、競売を求めた。

【判決】

  1. 本件建物の建設費用総額3754万8000円のうち、夫の支出額は1127万4000円、妻の弟の支出額は2627万4000円とみるべきであり、したがって、持分割合は、夫30%、妻の弟70%となる。尚、夫の支出額は1127万4000円のうち1000万円程は夫の父から援助してもらったものであり、夫の固有資産から支出されている。
  2. 本件建物の固定資産評価額は954万0300円であり、被担保債権残額は2200万円を超えている。
  3. 本件建物を競売した場合にはローン債務が残存するものと考えられ、さらに、夫がここに居住する可能性も現実問題としてはほとんどありえない。このような事実関係の下では、本件建物の共有物分割の方法として全面的価格賠償によることは、価格賠償の金額が適性に評価され、被告がその資力を有する場合には、相当な方法であると考えられる。
  4. 本件における利益状況は離婚財産分与の場合に近いのであり、その場合には、通常、不動産の時価から債務額を控除した残額が財産分与に当たって考慮されるにとどまり、オーバーローンの場合、ことに本件のように不動産を取得する側が債務をも全面的に負担する場合には、オーバーローンに係る不動産は財産分与に当たって考慮の対象とされないことを考慮すべきであろう。そうすると、本件における全面的価格賠償の適正な金額は、前記の夫の持分割合を前提として本件建物について夫が有するところの潜在的利益を総合的に考慮した金額とするほかないと思われるが、前記のとおり、原告がここに居住する可能性が現実問題としてはほとんどありえないことを考慮するならば、その金額が、妻の弟主張の100万円を超えることはないものと解される。

【コメント】

 まず、オーバーローンの共有不動産を分割するために競売にできるか否かの点については、最高裁平成24年2月7日決定(判例タイムズ1379号104頁)は共有物分割のための競売に民事執行法63条(無剰余取消)の規定が準用されるとしましたので、現実的には競売は困難です。そうしますと、現物分割ができない以上、共有物を分割するためには全面的価格賠償によるほかありません。

 上記事案は離婚における財産分与ではありませんが、判決は、利益状況は離婚財産分与に近いものとしました。これは、妻の弟が負担している住宅ローンは夫婦が共同で負担すべきローンだと解しているものと思われます。

 そこで、以下では夫婦の離婚財産分与の問題として検討してみます。

 離婚財産分与と同様に考えますと、オーバーローン不動産は財産分与の対象からはずされますが、共有状態のまま残り、本件のように共有物分割の問題が残されます。そして、オーバーローンだからと言って無償で一方に分与することにも違和感があります。なぜなら、建物の時価を固定資産評価額の954万300円とすると、建設費用総額3754万8000円のうち1000万円は夫の固有資産から支出されているわけですから、954万0300円のうち254万0827円分は夫の固有の持分と考えられるからです。とすると、全面的価格賠償として254万0827円の支払いを命じてもよさそうです。

 しかし、一方、夫婦の共有持分は699万9473円分しかないのに、夫婦が共同して負担すべき住宅ローン2200万円は全て妻側が負担するという不公平が生じています。

 判決文からは明らかではありませんが、上記のような事情を斟酌し、判決は、「本件における全面的価格賠償の適正な金額は、前記の原告持分割合を前提として本件建物について原告が有するところの潜在的利益を総合的に考慮した金額とするほかない」として100万円の価格賠償で妻の弟の所有としたのかもしれません。

 離婚財産分与におけるオーバーローン不動産の取扱いは確定しておらず、更に研究が必要です。

(弁護士 井上元)