親権喪失・親権停止・管理権喪失・監護者指定・里親委託とは?

 父や母が、子を虐待、遺棄したり、子の財産を浪費したりする場合、そのような親から子を守る必要があります。

 子を守る方法として、親権喪失、親権停止、管理権喪失、監護者指定、里親委託・養護施設入所の承認申立などの方法がありますので、整理します。

1 親権喪失・親権停止・管理権喪失

親権喪失

 親権喪失とは、父または母による虐待または悪意の遺棄があるとき、その他父または母による親権の行使が著しく困難または不適当であることにより子の利益を著しく害するとき、家庭裁判所が、申立により、父または母について、親権喪失の審判をすることです(民法834条)。

 ただし、2年以内にその原因が消滅する見込みがあるときは、親権喪失の審判をすることができません(同条ただし書)。

裁判例

①名古屋家審平成18・7・25家庭裁判月報59巻4号127頁

 児童相談所長が申し立てた親権喪失宣告申立事件を本案とする親権者の職務執行停止・職務代行者選任申立事件において、未成年者が重篤な心臓疾患に罹患し、早急に手術等の医療措置を数次にわたって施さなければ、近い将来、死亡を免れ得ない状況にあるにもかかわらず、親権者らが宗教上の理由から手術に同意することを拒否している状況において、親権者らの手術同意拒否は、合理的理由が認められず、親権を濫用し、未成年者の福祉を著しく損なっているものというべきであるとして、親権者らの職務の執行を停止させ、その停止期間中の職務代行者を選任しました。

②名古屋家裁岡崎支審平成16・12・9家庭裁判月報57巻12号82頁

 児童相談所長が、児童福祉施設に入所している児童の親権者である実母及び養父につき親権の喪失を求めた事案において、親権の喪失を宣告しました。

③長崎家裁佐世保支審平成12・2・23家庭裁判月報52巻8号55頁

 児童らが入所している児童相談所長から、児童らの親権者の親権の喪失を求めた事案において、親権者が児童らに対し、親権を濫用して日常的な身体的虐待、あるいは性的虐待を加え、その福祉を著しく損なったとして、親権の喪失を宣告しました。

親権停止

 親権停止とは、父または母による親権の行使が困難または不適当であることにより子の利益を害するとき、家庭裁判所が、父または母について、親権停止の審判をすることです(民法834条の1第1項)。

 家庭裁判所は、親権停止の審判をするときは、その原因が消滅するまでに要すると見込まれる期間、子の心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮して、2年を超えない範囲内で、親権を停止する期間を定めます(同条第2項)。

 親権喪失は「2年以内にその原因が消滅する見込みがない」との要件があるなどの理由により適用のハードルが高いものでした。親権停止は、親権喪失に至らない場合に利用されるものであり、2011年の法改正により新設されたものです。

裁判例

①東京高決令和1・6・28判時2491号3頁

 親権者である養父及び実母から暴行等の虐待を受け、一時保護の措置がとられている子について、親権者らによる親権の行使が不適当であり、そのことにより子の利益を害することは明らかであるとして、親権者らの子に対する親権が2年間停止された。

②広島家審平成28・11・21判時2351号54頁・判タ1445号250頁

 親権者である父から暴行等を受け、自立援助ホームで生活している高校3年生の未成年者について、就職の諸手続を進めるために親権者の同意が必要であるが、親権者が協力を拒んでいるなどとして、親権停止の審判前の保全処分が認容された。

③東京家審平成28・6・29判時2333号107頁・判タ1438号250頁

 親権停止審判申立事件を本案事件とする審判前の保全処分申立事件において、重篤な心臓疾患を抱えるなどし、直ちに治療及び手術を受ける必要がある未成年者の親権者らについて、同人らのこれまでの対応や現在の生活状況等に照らし、現在の緊急事態に迅速かつ適切に対応できるかどうか疑問があるとして、本案審判認容の蓋然性及び保全の必要性が認められ、親権者らの未成年者に対する職務の執行が停止された。

④千葉家裁館山支審平成28・3・31判タ1433号247頁

 特別支援学校への進学手続完了後、本案について、親権の行使が不適切であることにより未成年者の利益を害するとして親権の停止が認められた。

⑤千葉家裁館山支審平成28・3・17判タ1433号247頁

 軽度精神発達障害等のある未成年者が、特別支援学校に進学するに当たり、療育手帳の取得等を行わなければならないにもかかわらず、親権者がこれに応じないために、親権停止を求めた本案に関し、緊急性を要するとして申し立てられた審判前の保全処分事件について、保全の必要性が認められ、親権者の未成年者に対する親権者としての職務の執行を停止し、その停止期間中の職務代行者が選任された。

⑥和歌山家審平成27・9・30判時2310号132頁・判タ1427号248頁

 親権停止の審判がされた後の親の生活状態、子の監護状況、子の意向等を考慮して、同審判が取り消された。

⑦東京家審平成27・4・14判時2284号109頁・判タ1423号379頁

 未成年者について可及的速やかに手術を行う必要があり、その親権者が宗教的信念を理由として必要な輸血に同意しないことが、未成年者の生命に危険を生じさせる可能性が高く、子の利益を害することが明らかであるとして、親権者らの未成年者に対する親権を停止し、かつ、その停止期間中、職務代行者が選任された。

管理権喪失

 管理権喪失とは、父または母による管理権の行使が困難または不適当であることにより子の利益を害するときは、家庭裁判所が、父または母について、管理権喪失の審判をすることです。

 年長の未成年者が児童養護施設等から退所した後などに、事実上親権者から自立して、アパートを借りたり、就職したりしようとしているのに、親権者がこれに同意しないため、契約の締結などをすることができない場合などり利用することができます。

裁判例

①高松家審平成20・1・24家庭裁判月報62巻8号89頁

 親権者父が未成年者所有の不動産を売却した代金につき、その一部を大学の学費に充ててほしいとの未成年者の希望にこたえることなく自己の債務の弁済等に充てたほか、未成年者所有の他の不動産をも未成年者に無断で売却しようとしたことからすると、その管理が適切でないことは明らかであり、これによって未成年者の財産を危うくしたものとして、その管理権の喪失を宣告した。

②東京高決平成2・9・17判例時報1366号51頁

 親権者が破産宣告を受けたことは、当然管理権喪失の原因になると解するとした。

③長崎家裁佐世保支審昭和59・3・30家庭裁判月報37巻1号124頁

 親権者実母および養父に対して実父方祖父が親権喪失を申し立てた事案において、実母および養父が実父の死亡により未成年者の受け取った生命保険金のうち自己のためその約半額を費消したことは、財産管理権を濫用しているというべきであるが、財産管理権以外の親権を濫用しているものとは認められないとして、両名の未成年者に対する親権のうち管理権のみを喪失させ、その余の申立てを却下した。

申立権者

 親権喪失および親権停止の申立権者は、子、その親族、未成年後見人、未成年後見監督人、検察官(民法834条、835条)および児童相談所長(児童福祉法33の7)です。

手続の流れ

①親権喪失・停止・管理権喪失審判の請求 ⇒ ②保全処分(親権者の職務執行停止と職務代行者の選任) ⇒ ③代行者による権限行使

もしくは、

①親権喪失・停止・管理権喪失審判の請求 ⇒ ②未成年後見人の選任 ⇒ ③後見人による権限行使

という手順になります。

2 監護者指定

 監護者指定(民法766条)により父母以外の者(第三者)を監護者に指定し、子を守るという方法もあります。

第766条(離婚後の子の監護に関する事項の定め等)

1 父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。

2 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、同項の事項を定める。

3 家庭裁判所は、必要があると認めるときは、前2項の規定による定めを変更し、その他子の監護について相当な処分を命ずることができる。

4 前3項の規定によっては、監護の範囲外では、父母の権利義務に変更を生じない。

裁判例

(祖父母等の申立権を否定したもの)

①仙台高決平成12・6・22家庭裁判月報54巻5号125頁

 家庭裁判所に対して子の監護者の指定の審判の申立てをすることができるのは、子の父と母であり、第三者にはその指定の申立権はないなどとして、第三者からの子の監護者の指定申立てを却下した。

②東京高決平成20・1・30家庭裁判月報60巻8号59頁

 未成年者を現に監護する祖父母が、親権者母を相手方として、自らを監護者に指定することを求めた事案において、未成年の子の父母以外の親族が自らを監護者と指定することを求めることは審判事項には当たらないとして、申立てを不適法却下した。

(祖父母等の申立権を肯定したもの)

①福岡高決平成14・9・13判例タイムズ1115号208頁

 未成年者の実の祖母からの監護権者指定申立て及び子の引渡しの仮処分をいずれも認容した。

②金沢家裁七尾支審平成17・3・11家庭裁判月報57巻9号47頁

 父母が子の監護権に関する合意を適切に成立させることができず子の福祉に著しく反する結果をもたらしている場合には、家庭裁判所の権限につき民法766条を、申立権者の範囲につき民法834条をそれぞれ類推適用し、家庭裁判所は子の監護者を定めることができるとして、子の祖母からの監護者指定の申立てを認め、祖母を子の監護者に指定した。

(その他)

①福岡家審平成26・11・14

 未成年者の実父である申立人が、同実母及び養父である相手方らに対し、児童福祉施設に措置されている未成年者について、相手方らの養育意思、養育能力の欠如を理由に、監護者を申立人と定めることを求めた事案において、未成年者の看護者申立人と指定することが同人の福祉に合致するとされた。

3 里親委託・養護施設入所の承認申立

 親権者による虐待や著しい監護の怠りがあり、その者に監護させることが著しく子の福祉を害する場合には、児童相談所長は家庭裁判所の承認を得て、里親委託や施設への入所措置をとることができます(児童福祉法28条1項)。

裁判例

①浦和家審平成8・3・22家庭裁判月報48巻10号168頁

 栄養失調等により入院した児童(7歳)に関する児童相談所からの福祉施設収容の承認申立事件を本案とする審判前の保全処分の申立てについて、親権者による転退院手続の禁止、退院後の申立人による一時保護等を認めた。

②千葉家裁市川出張所審平成14・12・6家庭裁判月報55巻9号70頁

 児童相談所長が継父による性的虐待を理由に児童の施設への入所の承認を求めた事件において、親権者母が、継父による性的虐待を理由とする施設の入所措置に同意しないときは、児童の性非行を理由とする施設入所措置には同意していても、結局本件措置が親権者の意に反するときに該当することになると解すべきであるとしたうえ、継父の児童に対する性的虐待を放置するなどした母に、このまま児童を監護させることは、著しく児童の福祉を害することが明らかであるとして、児童自立支援施設への入所を承認した。

③横浜家裁川崎支審平成19・10・15家庭裁判月報60巻7号84頁

 児童養護施設に入所中の児童(15歳)につき、児童相談所長が里親委託の承認を求めた事案において、集団生活にうまく適応できない児童にとっては個別的に細やかな対応のできる里親委託が有効であること、児童は、里親と良好な関係を築き、里親の下で安定しており、里親に委託されることを希望していること等に照らすと、児童の福祉のために里親委託するのが相当であるとして、これを承認した。

④熊本家審平成21・8・7家庭裁判月報62巻7号85頁

 事件本人の薬物事故が実母の故意によるものとは認められないが、実母の体調不良が事件本人の養育に支障を来していること、実母の薬物管理には問題があり、再度薬物事故が発生する可能性を否定できず、その場合には事件本人の生命健康に取り返しのつかない被害を生じさせるおそれがあることなどを考慮すると、事件本人を保護者に監護させることが著しく当該児童の福祉を害する場合に該当するから、児童養護施設への入所措置を承認するのが相当であるとした。

⑤大阪高決平成21・9・7家庭裁判月報62巻7号61頁

 親権者父母は自ら事件本人らの育児をした経験に乏しいことや、事件本人らの異父姉が親権者父から性的虐待を受け、親権者母はこれを防止できなかったことなどの事情に照らすと、親権者父母の監護能力及び監護者としての適格性には疑問があり、親権者父母が事件本人らを監護養育するに先立ち、一定期間抗告人において親権者父母に対する適切な指導を実施する必要があるが、その実施に至っていないことにかんがみれば、事件本人らを直ちに親権者父母に監護させることは事件本人らの福祉を著しく害するおそれがあり、抗告人による指導実施等に1年程度の準備期間を確保するために、抗告人が事件本人らを児童養護施設等へ入所させることを承認するのが相当であるとした。

(弁護士 井上元)