養育費と算定表

 夫婦が離婚した場合、双方がその経済力に応じて養育費を分担することになります。

 通常、母親が子供を引き取ることが多いでしょうから、この場合、母親が父親(元夫)に対して養育費の請求をすることになります。

 養育費の請求は、民法766条1項「父母が協議上の離婚をするときは、・・・子の監護に要する費用の分担・・・は、その協議で定める。」、2項「前項の協議が定まらないとき、又は協議することができないときは、家庭裁判所が同項の事項を定める。」との規定が根拠となります。

 離婚と一緒に離婚後の養育費を請求する場合には、離婚の協議の際に取りきめればよいですし、離婚調停を申し立てる場合には、その調停の中で決めることもできます。調停が不成立となり離婚訴訟を提起する場合には、養育費もあわせて判決で決めてもらうことになります。

 離婚後であれば、協議がまとまらない場合には子の監護に関する処分(養育費)調停事件を申し立てることになります。

 それでは、養育費の額はどのようにして決められるのでしょうか?

 東京・大阪養育費等研究会の「簡易迅速な養育費等の算定を目指して-養育費・婚姻費用の算定方式と算定表の提案-」判例タイムズ1111号285頁をもとに紹介しましょう。

 基本的な考え方は、「子のために費消されていたはずの生活費がいくらであるのかを計算し、これを義務者・権利者の収入の割合で按分し、義務者が支払うべき養育費の額を定める。」というものです。

 具体的には、次の1.~5.の段階の認定を経て養育費が算定されます。

  1. 義務者・権利者の基礎収入を認定する。
  2. 義務者・権利者及び子それぞれの最低生活費を認定する。
  3. 義務者・権利者の分担能力の有無を認定する。
  4. 子に充てられるべき生活費を認定する。
  5. 子の生活費を義務者・権利者双方の基礎収入の割合で按分し、義務者が分担すべき養育費を算出する。

 しかし、争いとなった場合には多数・多様な資料の集計が必要であり、養育費審判事件は審理が長期化していました。

 そこで、簡易迅速に養育費を算定するため、上記研究会により算定表が提唱されたのです。なお、婚姻期間中の生活費は婚姻費用と呼ばれます。算定表は養育費と婚姻費用のそれぞれについて作成されています。

 縦軸を義務者の年収、横軸を権利者の収入として交差するところが養育費となるものとされており、両者の年収さえ分かれば簡単に養育費の額を算定することができるため、現在の家庭裁判所における実務はほぼ算定表により運用されていると言ってよいでしょう。

 この養育費・婚姻費用算定表は裁判所サイトでも掲載されていますので御参照ください。

http://www.courts.go.jp/tokyo-f/saiban/tetuzuki/youikuhi_santei_hyou/

 これに対し、不合理な点があるにもかかわらず、算定表が独り歩きしていることは問題であるとして、日本弁護士連合会2012年3月15日「養育費・婚姻費用の簡易算定方式・簡易算定表」に対する意見書を提出しています。関心のある方はあわせて御参照ください。

http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/opinion/year/2012/120315_9.html

 (弁護士 井上元)