面会交流と間接強制についての最高裁決定

離婚した後、子供を引き取らなかった親(非監護親)は引き取った親(監護親)に対し、子供との面会交流を求めることができます(民法766条)。

子供を引き取った親(監護親)が子供と会わせてくれないとき、非監護親は監護親を相手方として家庭裁判所に対し、面会交流を求める調停を申し立て、話し合いがまとまると調停調書が作成されます。話し合いがまとまらなければ、裁判所は審判で面接交流を命じます。

監護親が調停で子供と面会交流させることに同意したにもかかわらず、これを実行しない場合、履行勧告の制度があります。非監護親が家庭裁判所に対して申し立てると、家庭裁判所は調査のうえ、監護親に対して面会交流を履行するよう勧告してくれるのです。

履行勧告とは別に、面談交流の強制執行ができるかについては、直接強制はできず、間接強制ができるか否かが問題となっていました。間接強制とは、面談交流に応じなければお金の支払いを命じて、履行を強制しようとするものです。

この問題につき、平成25年3月28日、最高裁判所で3件の裁判が出ましたのでご紹介します。いずれも、父親が母親に対して面会交流を実行するよう間接強制を求めたものですので、非監護親を「父親」、監護親を「母親」と表記します。

(1) 最高裁平成25年3月28日決定(平成24年(許)第48号)裁判所HP

家庭裁判所において次の内容の審判が出され、確定しました。

  1. 面会交流の日程等について、月1回、毎月第2土曜日の午前10時から午後4時までとし、場所は、長女の福祉を考慮して父親自宅以外の父親が定めた場所とする
  2. 面会交流の方法として、長女の受渡場所は、母親自宅以外の場所とし、当事者間で協議して定めるが、協議が調わないときは、JR甲駅東口改札付近とすること、母親は、面会交流開始時に、受渡場所において長女を父親に引き渡し、父親は、面会交流終了時に、受渡場所において長女を母親に引き渡すこと、母親は、長女を引き渡す場面のほかは、父親と長女の面会交流には立ち会わない
  3. 長女の病気などやむを得ない事情により上記(1)の日程で面会交流を実施できない場合は、父親と母親は、長女の福祉を考慮して代替日を決める
  4. 母親は、父親が長女の入学式、卒業式、運動会等の学校行事(父兄参観日を除く。)に参列することを妨げてはならない 

母親が面会交流を実行しなかったため、父親は裁判所に間接強制の申し立てを行い、裁判所は母親がその義務を履行しないときは、不履行1回につき5万円の割合による金員を父親に支払うよう命ずる間接強制決定をすべきものとしました。

この決定に対し、最高裁判所は次のように判示して、間接強制をすることができるとしました。

「監護親に対し非監護親が子と面会交流をすることを許さなければならないと命ずる審判において、面会交流の日時又は頻度、各回の面会交流時間の長さ、子の引渡しの方法等が具体的に定められているなど監護親がすべき給付の特定に欠けるところがないといえる場合は、上記審判に基づき監護親に対し間接強制決定をすることができると解するのが相当である。」
 「本件要領は、面会交流の日時、各回の面会交流時間の長さ及び子の引渡しの方法の定めにより母親がすべき給付の特定に欠けるところはないといえるから、本件審判に基づき間接強制決定をすることができる。 」

(2) 最高裁平成25年3月28日決定(平成24年(許)第47号)裁判所HP

家庭裁判所において次の内容の調停が成立しました。

  1. 母親は,父親に対し、長男と、2箇月に1回程度、原則として第3土曜日の翌日に、半日程度(原則として午前11時から午後5時まで)面接をすることを認める。ただし、最初は1時間程度から始めることとし、長男の様子を見ながら徐々に時間を延ばすこととする。
  2. 母親は、前項に定める面接の開始時にa県b市のc通りの喫茶店の前で長男を父親に会わせ、父親は終了時間に同場所において長男を母親に引き渡すことを当面の原則とする。ただし、面接交渉の具体的な日時、場所、方法は、子の福祉に慎重に配慮して、父親と母親間で協議して定める。
  3. 父親と母親は、上記(1)に基づく1回目の面接交渉を、平成22年1月末日までに行うこととする。
  4. 父親と母親は、二男については、将来的に長男と同様の面接交渉ができるようになることを目標にして、面接交渉の是非、方法等について協議する。なお、この協議は、本調停成立日の1年後を目安として始め、その後は二男の成長に配慮しながら適宜行い、双方は、二男の面接交渉の開始に向けて真摯に協力することとする。

母親が面会交流を実行しなかったため、父親は裁判所に間接強制の申し立てを行いましたが、裁判所は上記内容の調停調書では間接強制決定をすることはできないとしました。

この決定に対し、最高裁判所は次のように判示して、間接強制をすることはできないとしました。

「子を監護している親(以下「監護親」という。)と子を監護していない親(以下「非監護親」という。)との間で、非監護親と子との面会交流について定める場合、子の利益が最も優先して考慮されるべきであり(民法766条1項参照)、面会交流は、柔軟に対応することができる条項に基づき、監護親と非監護親の協力の下で実施されることが望ましい。一方、給付の意思が表示された調停調書の記載は、執行力のある債務名義と同一の効力を有する(平成23年法律第53号による廃止前の家事審判法21条1項ただし書、15条)。監護親と非監護親との間における非監護親と子との面会交流についての定めは、少なくとも、監護親が、引渡場所において非監護親に対して子を引き渡し、非監護親と子との面会交流の間、これを妨害しないなどの給付を内容とするものが一般であり、そのような給付については、性質上、間接強制をすることができないものではない。そして、調停調書において、監護親の給付の特定に欠けるところがないといえるときは、通常、監護親の給付の意思が表示されていると解するのが相当である。したがって、非監護親と監護親との間で非監護親と子が面会交流をすることを定める調停が成立した場合において、調停調書に面会交流の日時又は頻度、各回の面会交流時間の長さ、子の引渡しの方法等が具体的に定められているなど監護親がすべき給付の特定に欠けるところがないといえるときは、間接強制を許さない旨の合意が存在するなどの特段の事情がない限り、上記調停調書に基づき監護親に対し間接強制決定をすることができると解するのが相当である。」

「これを本件についてみると、本件調停条項(1)における面会交流をすることを「認める」との文言の使用によって直ちに母親の給付の意思が表示されていないとするのは相当ではないが、本件調停条項(1)は、面会交流の頻度について「2箇月に1回程度」とし、各回の面会交流時間の長さも、「半日程度(原則として午前11時から午後5時まで)」としつつも、「最初は1時間程度から始めることとし、長男の様子を見ながら徐々に時間を延ばすこととする。」とするなど、それらを必ずしも特定していないのであって、本件調停条項②において、「面接交渉の具体的な日時、場所、方法等は、子の福祉に慎重に配慮して、父親と母親間で協議して定める。」としていることにも照らすと、本件調停調書は、父親と長男との面会交流の大枠を定め、その具体的な内容は、父親と母親との協議で定めることを予定しているものといえる。そうすると、本件調停調書においては、母親がすべき給付が十分に特定されているとはいえないから、本件調停調書に基づき間接強制決定をすることはできない。」

(3) 最高裁平成25年3月28日決定(平成24年(許)第41号)裁判所HP

家庭裁判所において、「母親に対し、父親と長男及び二男が、1箇月に2回、土曜日又は日曜日に、1回につき6時間面会交流をすることを許さなければならない」などとする審判がされ、確定しました。

 母親が面会交流を実行しなかったため、父親は裁判所に間接強制の申し立てを行いましたが、裁判所は上記内容の審判では間接強制決定をすることはできないとしました。

この決定に対し、最高裁判所は次のように判示して、間接強制をすることはできないとしました。 

「本件条項は、1箇月に2回、土曜日又は日曜日に面会交流をするものとし、また、1回につき6時間面会交流をするとして、面会交流の頻度や各回の面会交流時間の長さは定められているといえるものの、長男及び二男の引渡しの方法については何ら定められてはいない。そうすると、本件審判においては、母親がすべき給付が十分に特定されているとはいえないから、本件審判に基づき間接強制決定をすることはできない。 」」

(2)と(3)の事例でも、面会交流の方法について相当程度詳細に記載されていますが、裁判所は、これでも給付内容が十分に特定されていなしとして間接強制することはできないとしたのです。

上記裁判例の是非はともかく、今後、面接交流の調停においては、どの程度詳細な記載にするか争いが生じそうです。

(弁護士 井上元)