離婚財産分与の対象とならなかったオーバーロン不動産の所有権の帰趨

 夫婦が離婚する際、結婚後に購入した不動産は夫名義でも財産分与の対象となりますが、時価を超えるローンが残っている場合(いわゆるオーバーローンの状態)、評価額は0円となり、財産分与の対象となりません。

 しかし、不動産購入にあたって、妻が自己の特有財産から資金を出した場合、財産分与で清算されなかった後、自己の持分を主張できるのでしょうか?

 この点、東京地裁平成24年12月27日判決(判例時報2179号78頁)は、

「そもそも、夫婦間の財産分与は、夫婦共同生活中の共通の財産の清算であり、財産分与の対象とされた財産を金銭的に評価し、そこから負債を控除し、なお積極財産が残る場合に、特段の事情がない限り、その2分の1に相当する額を相互に分与しあうことで、夫婦間の実質的公平を図る制度である。」と原則を述べたうえで、

「ところが、住宅ローン残高が不動産価値を上回るいわゆるオーバーローンの不動産や、不動産の価値と住宅ローン残高がほぼ同程度であるとして残余価値がないと評価された不動産は、積極財産として金銭評価されることがないため、夫婦間の離婚訴訟の財産分与の手続においては、清算の対象とはならない。その結果、夫婦共有財産と判断された不動産について清算が未了のままとなる事態が生じ得るが、この場合、不動産の購入にあたって自己の特有財産から出捐をした当事者は、かかる出捐をした金員につき、離婚訴訟においては、その清算につき判断がなされないまま財産分与額を定められてしまい、他方で、たまたま当該不動産の登記名義を有していた相手方当事者は、出捐者の損失のもとで不動産の財産的価値のすべてを保有し続けることができるという極めて不公平な事態を招来することになる。」と問題を提起しています。

 そのうえで、「そこで、夫婦の一方がその特有財産から不動産売買代金を支出したような場合には、当該不動産が財産分与の計算においてオーバーローン又は残余価値なしと評価され、財産分与の対象財産から外されたとしても、離婚訴訟を担当した裁判所が特有財産から支出された金員につき何ら審理判断をしていない以上、離婚の際の財産分与とは別に、当該不動産の共有関係について審理判断がされるべきである。」とし、

 当該事案では、「本件不動産の評価額に照らせば、本件不動産のうち少なくとも持分3分の1については、妻の持分に属するものであることが認められる。」と判断しました。

 この問題は、これまで論じられることがありませんでした。上記判決は注目すべき判決ですが、他の事案でも同じ判断になるかどうか分かりません。

(弁護士 井上元)