夫が妻の居住する自宅のローンを負担している場合の婚姻費用の算定

 夫婦が別居した後、収入が少ない妻から夫に対して生活費の支払を求めることができます(婚姻費用分担)。養育費や婚姻費用の額につき、実務上、東京・大阪養育費等研究会による標準算定方式で運用されていますが、具体的な事情により修正される場合があります。

 夫が自宅を出て別居した後、妻と子供は夫名義の家に居住を続け、家の住宅ローンは夫が支払っている事案において、東京家裁平成22年11月24日審判(家庭裁判月報63巻10号59頁)は、次のように判示しています。

「 妻の収入を給与収入84万円、夫の収入を給与収入1568万円として、東京・大阪養育費等研究会による標準算定方式(判例タイムズ1111号285頁以下参照)に基づき本件の婚姻費用を試算すると、夫が負担すべき婚姻費用分担金の額は月額30万円から32万円と試算される。

 もっとも、上記算定方式は、別居中の権利者世帯と義務者世帯が、統計的数値に照らして標準的な住居費を、それぞれが負担していることを前提として標準的な婚姻費用分担金の額を算定するものであるところ、本件では、夫が、妻の居住する自宅の住宅ローンを負担しており、いわば義務者が自己の住居費と権利者の住居費を二重に負担している状態にあるから、当事者の公平を図るには、婚姻費用分担金を決定するに当たって、上記試算結果から、権利者の総収入に対 応する標準的な住居関係費を控除するのが相当である(判例タイムズ1208号30頁以下参照)。

 そして、妻の総収入に対応する標準的な住居関係費は、月額3万円弱であるから、本件においては、上記試算結果の下限額である30万円から3万円を控除した27万円を夫が負担すべき婚姻費用分担金の額とするのが相当である。

 なお、夫は、本件においては、妻が上記自宅に執着するために同住宅から生ずる過度の負担が夫に生じている一方、上記算定方式によって定められる婚姻費用分担金の額は高額であるから、そこから住宅ローン全額を控除したからといって、妻に支払われる婚姻費用の額が少額になるとはいえないとして、上記算定方式により試算された婚姻費用分担金の額から住宅ローンの支払額全額を控除すベき旨主張する。しかし、夫も認めるとおり、住宅ローンの支払には、その資産を形成する側面があり、夫の年収からして、上記婚姻費用分担金のほかに住宅ローン全額を負担させることが過大な負担になるとは言い難いこと、また、上記算定方式において、夫の基礎収入を算定するに当たり、総収入から住居関係費として10万円以上が控除されていることからすれば、本件において上記算定方式による試算結果から控除すべき住宅ローンの額を月額3万円に留めることが、当事者間の公平に反するとはいえない。」

 上記審判は、夫が自分の住居費と妻の居住する自宅の住宅ローンを負担しており、住居費を二重負担していることを理由に、標準的算定方式で算出される金額から、妻の総収入に対応する標準的な住居関係費を控除して夫が支払うべき婚姻費用を算定したものです。

 婚姻費用算定の際には上記審判を参考にしてください。

(弁護士 井上元)