夫婦の実質的共有財産の清算は財産分与手続において帰属を決すべきとされた事例

 夫婦の実質的共有財産の清算は財産分与手続で行うべきですが、実質的共有財産か否か明確ではない場合、地方裁判所で争うことができるのでしょうか?

 この問題につき東京地裁平成21年11月9日判決が判断していますのでご紹介しましょう。

【事案の概要】

 夫婦は昭和35年に婚姻し、平成17年に調停離婚した。同年、妻は夫に対し財産分与審判の申立てを行い家庭裁判所において係属している。

 一方、夫婦は夫名義で土地・建物を所有していたところ、平成9年に1億8500万円で売却した。妻は、売却代金が入金された夫名義の預金口座から数千万円を引き出し、自分名義及び子供名義の口座に振り込んだ。そこで、平成18年、元夫は、東京地方裁判所に対し、妻と子供に上記預金引出金の返還を求める訴訟を提起した。

【判決】

 妻は、財産分与審判の手続は係属中であるところ、妻が夫に金銭を支払うこととなったとしても財産分与手続における夫婦共有財産の合計に変化はなく無意味であり、また、実質的に二重起訴に当たるから、不適法であると主張しました。これに対し、判決は次にように判示して訴訟提起は適法であるとしました。

「法は、離婚に伴う夫婦間の財産分与手続を定めており(民法768条、家事審判法9条乙類5号、人事訴訟法32条)、夫婦の実質的共有財産の清算については当該手続で行うことを本来的に予定しているから、離婚した夫婦の一方が他方に対し財産の引渡し等を求める場合、それが夫婦の実質的共有財産に属するものであれば、財産分与手続においてその帰属を決すべきである。そして、夫婦の実質的共有財産に属することに争いがないなどその性質が明確であるものについては、離婚した夫婦の一方は、他方に対し、もはや民事訴訟手続において別途請求することは許されないと解すべきである。

これを本件についてみると、夫名義の預金口座から妻名義の預金口座に振り込まれた金銭が、夫及び妻の実質的共有財産なのか、夫の特有財産なのかは必ずしも明確とはいえず、夫の妻に対する請求は、自己の特有財産として請求する趣旨とも解する余地があるものである。そうすると、夫の妻に対する不当利得返還請求は、夫婦の実質的共有財産であることを前提としながら、これについて不当利得返還請求をしているとはいえないのであるから、不適法であるとはいえないというべきである。」

 ただし、この事案では、夫が送金につき承諾していたとして夫の請求は棄却しています。

【コメント】

 上記判決は、一般論としては当たり前のことを述べているようにも思えますが、よく考えてみると、なかなか微妙な判断をしています。

 といいますのは、妻が夫名義の預金から引き出したのが平成9年、離婚したのが平成17年であり、この間、8年間あります。平成17年の離婚時の財産分与の対象たる財産に妻が平成9年に引き出したお金を含ませるためには、夫は、妻が平成9年に引き出したお金が平成17年の時点でも存在することを証明しなければなりません(ただし、平成9年頃に既に別居状態になっており、平成9年の財産が基準として財産分与が決められる場合は別ですが)。また、子供に渡したお金が財産分与の対象となるとは考え難いところですので、これまで財産分与の手続では解決できません。

 そこで、上記判決は、前段で、「夫婦の実質的共有財産に属することに争いがないなどその性質が明確であるものについては、離婚した夫婦の一方は、他方に対し、もはや民事訴訟手続において別途請求することは許されないと解すべきである」としながらも、後段で「夫及び妻の実質的共有財産なのか、夫の特有財産なのかは必ずしも明確とはいえず、夫の妻に対する請求は、自己の特有財産として請求する趣旨とも解する余地があるものである」と判断しているとも考えられるのです。

 どこまで財産分与手続で精算できるのか難しいところです。

(弁護士 井上元)