同居期間中に夫が浪費などしたため財産が無くなった場合に財産分与を認めた事例

 離婚の際の財産分与は、夫婦の別居時に存する財産が対象とされるのが原則ですが、同居期間中に夫が浪費などしたため別居時には既に財産が無くなっていた事案で、浦和地裁昭和61年8月4日判決(判タ639号208頁)は妻に対する財産分与を認めていますので紹介しましょう。

【事案の概要】

  1. 夫婦は、昭和51年に婚姻の届出をして夫婦となり、長男、二男が生まれた。
  2. 夫は、昭和55年から56年にかけて、女性と継続的な情交関係を持ち、その示談金として95万円、500万円の計595万円を夫婦の財産から支払った。
  3. 夫は、昭和55年に200万円(ローンにしたため約300万円の支払となつた。)の車を購入し、ほとんど自分一人の楽しみのために使用した。
  4. 夫は、上記示談金支払のため多額の債務を生じてからも、家計を無視してスーツ、ゴルフ用品を買い求めるなど金遣いが荒くなつた。
  5. 夫は、昭和58年1月から、保育料、電話・電気代を銀行からの引き落としの方法により支払うだけで、給与を家計にいれなくなつた。
  6. 夫の暴力はひどくなり、昭和58年、夫婦は別居した。

【判決内容】

  1. 婚姻後同居期間中である上記95万円の示談金の支払時である昭和55年8月頃、定期性の貯蓄は夫名義でしていたが、それは、300万円から350万円であつた。
  2. しかし、上記95万円及び500万円の示談金の支払、車の購入(支払額約300万円)、夫の浪費、昭和58年からの夫の婚姻費用非分担のため、夫婦の定期性の貯蓄、妻の預金等は昭和58年8月の別居時点では、全く存在せず、夫は別居後も車を所有している。
  3. 以上の事実に鑑みれば、夫は離婚に伴う財産分与として妻に対し、500万円を給付するのが相当である。

 この裁判例は珍しい事例であり、一般的ではないかもしれませんが、同様の事案では参考になるものと思います。

(弁護士 井上元)