妻が財産分与で夫名義のローン付きマンションを取得した場合におけるローンの負担者は誰か?

 離婚に際し、夫名義でローン付きマンションが存する場合の財産分与として、夫にマンションを取得させ、妻には金銭を支払わせるのが一般的です。例えば、マンションが4000万円、住宅ローン残額が2000万円である場合、4000万円から2000万円を控除した残額2000万円が財産分与の対象となる額であり、夫に夫名義のマンションをそのまま取得させ、夫から妻に対して財産分与として1000万円を支払わせるのです。

 しかし、妻がマンションに居住していて、マンション取得を希望しているような場合など、妻にマンションを取得させることが適切なこともありますが、妻にマンションを取得させることができるのでしょうか?また、残った住宅ローンは誰が支払うことになるのでしょうか?

 このような事案で、東京地裁平成15年5月14日判決は次のように判断しています。尚、同事案は、夫が女性と不貞をしており、夫が妻に対して慰謝料を支払うべき事案でした。

(1) 財産分与の対象となるのは、夫婦の共有財産の形成を認めることができない状態に至った時点におけるマンションの時価から遅くとも同時点におけるローンの残債務の額を控除し、かつ、その後に当該残債務の支払がされない場合には、金融機関から担保権を実行されて所有権を喪失する危険があることも考慮に入れた価額にとどまるものというべきである。

(2) 財産分与の割合は、2分の1とするのが相当であるが、マンションは、その購入後、夫婦の別居を経て、現在に至るまで、妻が生活していることを考えると、夫からマンションの2分の1の持分を被告に分与するのではなく、残り2分の1の持分を含む、マンションの所有権の全部を妻に取得させるのが相当である。

(3) これによれば、妻が本来の財産分与以上の持分を取得することになるが、その不合理は、妻から夫に対する金銭の支払などによって調整すべきところ、本件では、夫が妻に対して支払うべき慰謝料の算定に際して斟酌されているのであるから、これを不合理というべきものではない。

(4) もっとも、以上のようにして妻が取得するマンションも、ローンの残債務が完済されていない状態であるから、ローンの残債務が支払われなければ、金融機関の担保権の実行によって妻が財産分与によって取得した所有権を喪失する危険があるが、その危険を考慮したうえ、妻にマンションを取得させることにしたのであって、ローンの残債務は、妻が実質的には負担すべきものである。後日、妻が本件マンションの所有権を喪失するとしたら、それは、妻が今回の財産分与に際して考慮された危険を看過した結果というほかない。

 つまり、マンションが4000万円、住宅ローン残額が2000万円であるとすると、マンションの評価額は差額の2000万円であり、妻が清算的財産分与として取得することができるのは1000万円ですから、妻がマンション全てを取得すると1000万円をもらい過ぎることになります。上記判決は、慰謝料的要素を勘案して、妻にマンション全てを取得させたのです。慰謝料的要素を勘案することができなければ、妻は夫に1000万円を支払わなければなりません。

 そして、住宅ローン残額2000万円については、妻が実質的に負担すべきものであるとしました。

 同様の事案で妻がマンションなどの不動産を取得することを希望するのであれば、(1)妻は全部を取得することができるのか、(2)残ローンをどのようにして支払っていくか、を検討しなければなりません。

(弁護士 井上元)